突然、猫が扉に向かって威嚇を始めたわけ
これは、昨夜のことです。
ベッドで上体を起こして携帯を弄っていたら、突然足元で寝ていた猫が起き上がり、部屋の扉に向かって威嚇を始めました。
しかし、そちらを見てもそこには何もなく手元に視線を戻したのですが、視界の端にあった扉の、少しだけ空いていた隙間に『子供の顔』があったのです。
ですが、慌てて視線を向けても何もなく、けれど視線を外すとそこにいる。
ホラー映画に出てくるような真っ白い血の気のない顔で、両目のあるべき所は真っ黒でした。
床からほんの少し上に、顔だけが浮いてこちらをじっと見ていました。
もうダメかもしれない・・・
どうしようと思いつつもどうしようもなく、ちらちらとたまに目を向けながら携帯を弄り続けていたのですが、だんだんと寒くなっていることに気づきました。
猫は威嚇を続けたままです。
寒さで指先が上手く動かず、なんとか携帯で友人に連絡をしました。
変わらずこちらを見ている子供の顔。
怖さが込み上げてきて、私は半ばパニック状態だったと思います。
手の届く範囲にあった缶を投げ付けようとしました。
ですが、手首から先と首以外は体が全く動きませんでした。
声も出せませんでした。
恐怖で涙が溢れ、なかなか信じてくれなかった友人も私のメチャクチャな文章などで信じてくれたらしく、真剣に話を聞いてくれました。
私以外の家族は全員寝てしまっていて物音もなく、声も出せず動けない。
混乱する私に友人は、「電話をかけて家族を起こしてはどうか?」と提案してくれました。
そして通話のアプリを開こうとしたのですが、『このアプリケーションは応答していません』というような文章が表示されて開くことが出来ませんでした。
そう友人に伝えると、「じゃあ自分がかける」と言って、とりあえず私の携帯に電話をかけてくれました。
急いで通話ボタンを押しましたが、反応しませんでした。
確かに押しているのに反応はなく、そのうち友人が呼び出しをやめて、「どうしたの?」と聞いてきたので説明すると、「じゃあ家の電話にかける」とのこと。
家の電話番号を伝えて、かかってくるのを待っていました。
ですが、一向に着信音は鳴りません。
しばらくして友人から、「話し中で繋がらない」と連絡がきて、もうダメかもしれない・・・と涙が止まりませんでした。
母の携帯番号を教えてかけてもらっても、話し中で繋がらない。
その間も、子供の顔はずっとそこにあり、こちらを見つめています。
時間は午前2時半頃だったと思います。
突然、携帯の電源が切れました。
慌てて電源を入れようとしても反応せず、さらに寒くなっていきました。
恐怖でどうしようもなく、混乱するままドアの隙間に視線を向けると、何故か今まで視線を向けている時は見えなかった子供の顔が見えたのです。
おそらく女の子だったと思います。
女の子に恨まれるようなことをした覚えはないと内心叫びながらにらめっこをしていると、今度は視線が逸らせなくなったことに気づきました。
不本意にも見つめ合っていると、ふとその顔が少しずつ大きくなっていました。
大きくなっている・・・、つまり近づいて来ているということに。
内心では絶叫でした。
呼吸も苦しくなり、体が震えました。
もう部屋に入って来てしまう、となった時、威嚇を続けていた猫が机の上にあった缶を落としました。
下はフローリングなので割と大きな音が鳴り、その瞬間にフッと全てが消えました。
見つめ合っていた女の子の顔も、寒さも、息苦しさも、体の不自由さも全て消え、体から力が抜けました。
猫は足元で丸くなって寝ているし、少しするとお手洗いに起きた母が部屋の外の階段の電気をつけました。
全てがいつも通りでした。
携帯の電源も入りました。
友人に事の顛末を説明し、今日はもう休めと言われて毛布を被ってから、ふとイタズラ心が芽生えて部屋の扉を撮ってみました。
そして、『ここにいた』と一言添えて友人に送ると、返ってきたのは『今すぐ写真を消せ!』という強い言葉。
慌てて写真を見ると、女の子の顔があった床上よりもずっと上の方に何かが映っていました。
人形にも見えるし、覗き込んでいる大人の女の顔にも見えるし、さっきの女の子の顔にも見える白い何か・・・。
私はすぐに写真を削除し、全て悪い夢だったんだと言い聞かせて眠りにつきました。
しかし、今朝起きたら酷い頭痛と高熱に襲われていますが、きっと気のせいです。
(終)