こっくりさん
お母さんが子供の頃、
放課後の学校で友達二人と一緒に
こっくりさんをやったらしい。
○○ちゃんの好きな人は誰ですか~?
とか適当な質問をして遊び、
いよいよオシマイにする時、
「こっくりさんこっくりさん、
お帰りになってください」
と進行役の友達が言うと、
十円玉は「いいえ」に
止まってしまった。
しかもそのままグルグルと
鳥居のところを回りだし、
「かえらない」
「しね」
「いけにえよこせ」
などという言葉を、
いくつも示した。
でもお母さんは、
どうせ自分以外の友達
二人のどっちかが、
驚かそうと思って
やってるんだろうと思い、
こう質問したそうだ。
「こっくりさんこっくりさん、
いけにえは私以外の二人のうち、
どちらかにしてください」
お母さんの名前はアケミで、
友達の名前はタマコとナツエ。
ナツエはすぐに、
「そんな、ひどいよ!」
と怒ったそうだけど、
タマコの方は、
「ふぅ~ん。
じゃあこっくりさんの返事を
見てみようよ~」
と余裕そう。
この反応から、
きっと十円玉を動かしているのは
タマコだろうな、
そしてきっと「アケミをよこせ」
と言ってくるだろうな、
とお母さんは思った。
鳥居の周りでグルグルと思案している
ような動きをしていた十円玉が、
ずずっ、ずずっ、と、
文字へと動いていった
そうなのだが、
やはり「あ」を目指しているのが
明白だった。
タマコも、
「【あ】に向かってるから、
イケニエはやっぱアケミだね~。
あははは!」
と意地悪そうに笑った。
そこでお母さんは、
「こっくりさんこっくりさん、
この十円玉を動かしている人は
だれですか?」
と声をかけた。
すると、
ズズッと動いていた十円玉が
ピタッと止まった。
そして突然タマコが席を立ち、
頭を押さえて、
「い、いたっ、いたいいっ」
と騒ぎ出したんだって。
お母さんはすぐタマコに駆け寄って、
なに?どうしたの?
と様子を伺ったんだけど、
机の上では、
真っ青な顔をしたナツエだけが
十円玉に指を乗せたまま、
振り回されるようにひたすら同じ文句を
繰り返していたそうだ。
「こ」
「い」
「つ」
「こ」
「い」
「つ」
「こ」
「い」
「つ」
(終)