呪いの「かんひも」にまつわる出来事 2/3
電話を切った後、
爺ちゃんがエライ勢いで、
寝転がっている僕のところに
飛んで来ました。
僕を無理やり引き起こすと、
「A(僕)!!おま、今日、
どこぞいきおった!!
裏、行きおったんか!?
山、登りよったんか?!」
爺ちゃんの剣幕にびっくりしながらも、
僕は今日あったことを話しました。
騒ぎを聞きつけて、
台所や風呂場から飛んで来た
母と婆ちゃんも、
話を聞くと真っ青になっていました。
婆「あああ、まさか」
爺「・・・かも知れん」
母「迷信じゃなかったの・・・?」
僕は何がなんだか分からず、
ただ呆然としていました。
父も、よく分からない様子でしたが、
爺や婆ちゃん、母の様子に、
聞くに聞けないようでした。
とりあえず僕と爺ちゃん、
そして婆ちゃんの3人で、
隣のKの家へ行くことになりました。
爺ちゃんは出かける前に、
どこかへ電話をしていました。
何かあってはと、
父も行こうとしましたが、
母と一緒に留守番となりました。
Kの家に入ると、
今まで嗅いだことのない、
嫌な臭いがしました。
埃っぽいような、
すっぱいような・・・
今思うと、
あれが死臭というやつなんでしょうか。
「おい!K!!しっかりしろ!」
奥の居間からは、
Kの父の叫ぶような怒鳴り声が
聞こえていました。
爺ちゃんは断りもせずに、
ずかずかとKの家に入っていきました。
婆ちゃんと僕も続きました。
居間に入ると、
さらにあの臭いが強くなりました。
そこにKが横たわっていました。
そしてその脇で、
Kの父ちゃん、母ちゃん、婆ちゃんが、
必死に何かをしていました。
Kは意識があるのか無いのか。
目は開けていましたが、
焦点が定まらず口は半開きで、
泡で白っぽいヨダレをだらだらと
垂らしていました。
よくよく見ると、
みんなはKの右腕から
何かを外そうとしているようでした。
それは紛れも無く、
あの腕輪でした。
が、さっき見た時とは
様子が違っていました。
綺麗な紐は解けていて、
解けた一本一本の糸が、
Kの腕に刺さっているようでした。
そしてKの手は、
腕輪から先が黒くなっていました。
その黒いものは、
見ていると動いているようで、
まるで腕輪から刺さった糸が、
Kの手の中で動いているようでした。
「かんひもじゃ!」
爺ちゃんは大きな声で叫ぶと、
何を思ったか、
台所に走っていきました。
僕はKの手から目が離せません。
まるで、皮膚の下で無数の虫が
這いまわっているようでした。
すぐに爺ちゃんが戻ってきました。
なんと、
手には柳葉包丁を持っていました。
「何するんですか!?」
止めようとするKの父ちゃんと
母ちゃんを振り払って、
爺ちゃんはKの婆ちゃんに叫びました。
「腕はもうダメじゃ!
まだ頭まではいっちょらん!!」
Kの婆ちゃんは泣きながら頷きました。
爺ちゃんは少し躊躇した後、
包丁をKの腕に突き立てました。
悲鳴をあげたのはKの両親だけで、
Kは何の反応も示しませんでした。
あの異常な光景を、
僕は忘れられません。
Kの腕からは、
血が一滴も出ませんでした。
代わりに、
無数の髪の毛がぞわぞわと、
傷口から外にこぼれ出てきました。
もう、手の中の黒いものも、
動いていませんでした。
しばらくすると、
近くの寺から坊様が駆けつけて来ました。
爺ちゃんが先に電話したのは、
この寺のようでした。
坊様はKを寝室に移すと、
一晩中、読経をあげていました。
僕もKの前に読経をあげてもらい、
その日は家に帰って、
眠れない夜を過ごしました。
次の日、
Kは顔も見せずに、
朝早くから両親と一緒に
帰って行きました。
地元の大きな病院へ行くとのことでした。
爺ちゃんが言うには、
腕はもうダメだということでした。
「頭までいかずに良かった・・・」
と何度も言っていました。
僕は『かんひも』について
爺ちゃんに訊いてみましたが、
教えてはくれませんでした。
ただ、『髪被喪』と書いて
『かんひも』と読むこと、
あの道祖神は『阿苦(あく)』という
名前だということだけは、
婆ちゃんから教えてもらいました。
古くから伝わる呪(まじな)い、
のようなものなんでしょうか。
それ以来、
爺ちゃんたちに会っても、
聞くに聞けずにいます。
もしあれが頭までいっていたら
一体どうなるのか・・・
以上が、僕が『かんひも』について
知っている全てです。
<後日談に続きます>