屋上にはナナシが居た 2/2

「ナナシ!!!???ナナシいる!!!!??」

 

僕はドアに手を掛けた。

 

すると、鍵は掛かっておらず、

すんなり開いた。

 

不法侵入だの何だの何も考えず中に入って、

辺りを見回した。

 

ナナシはいない。

匂いのもとはどこだろう?

 

そう思っていた時、

 

「・・・よお?」

 

後ろから声をかけられた。

振り向くと、そこにはナナシがいた。

 

いつものヘラヘラした笑顔と、

片手に大きな斧。

 

「な、なし、何して・・・」

 

「どうしたんだよ二人して。なあ?」

 

ナナシは笑った。

でも、目はぜんっぜん笑って無かった。

 

イッちゃった表情?というのか、

知らない人みたいだった。

 

そして気づいた。

 

ナナシの後ろの部屋から、

煙が立ち上ぼっているのに。

 

慌ててナナシを押し退けて部屋を見ると、

そこはもう真っ白だった。

 

薄く見える、グチャグチャに潰された

仏壇らしきものと、赤い炎。

 

「ナナシっ・・・お前」

 

「母さんを殺したんだ」

 

僕を遮ってナナシは言った。

 

「母さん、俺のこと殴るから。

優しいんだよ?優しいけど、殴るから。

親父の悪口言いながら殴るから、殺したんだ。

 

でも、母さんいなくなったら、俺、

誰もいなくてさ」

 

ナナシは楽しい思い出でも語るかのように、

笑って言った。

 

僕もアキヤマさんも黙って聞いていた。

 

「だからね、もっかい生き返ればいいなあって。

今度は優しい母さんかもしれないじゃん?

だから、頑張ったよ?俺。

頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って」

 

不意に、笑顔が泣きそうな顔に歪んだ。

初めて見る表情だった。

 

「成功、したと、思ったんだ」

 

そう言うとナナシは、斧を壁に叩きつけた。

斧は深々と壁に突き刺さった。

 

「なのにさあ、母さん。

俺のこと殺そうとするんだ。

俺あんなに頑張ったのに。

だからもっかい殺したんだ。

 

でも、何回でも生き返って、

俺のこと殺そうとするんだ」

 

ナナシは泣いていた。

子どもみたいだと思った。

 

そんなこと考えてる場合じゃないし、

実際、子どもなんだから

不思議なことじゃないのに。

 

それはすごく不思議だった。

 

「だから、ハル、一緒に死んでよ」

 

そんなことを考えていた時、

ナナシがそう言った。

 

言ってる意味がわからなかった。

 

「・・・は?」

 

「友達でしょう、俺ら。

母さんに殺される前に一緒に死んでよ」

 

ナナシは僕に言った。

 

ナナシの表情は、

いつものヘラヘラ笑いに変わっていた。

 

後ろから煙がどんどんやってくるのも見えた。

 

僕は発作的に、

アキヤマさんに「逃げて!!」と叫んでいた。

 

「僕は大丈夫だから!!

火がまわっちゃう!!!誰か呼んで来て!!」

 

迷っていたが、

アキヤマさんは頷いて走って行った。

 

僕はナナシをなんとかしようと思った。

 

「な、何言ってんのナナシ。

お母さんなんていないよ。

死んじゃったんでしょ。

大丈夫だよ、きっと疲れてて・・・」

 

必死に言葉を並べて、

ナナシを説得しようとした。

 

しかし、ナナシの後ろから迫るものを見て、

二の句が継げなくなった。

 

「ひっ・・・」

 

さっき病院で見たものと全く同じものが、

ナナシの後ろにいた。

 

なんで?

さっき消えたはずなのに?

 

と考えていた時、ナナシが言った。

 

「ね?逃げられないんだ。もう」

 

そしてナナシは、僕の首に手を掛けた。

 

ゆっくりと力を加えられて、煙のせいか、

僕は抵抗も出来なかった。

 

「怖いの、もう嫌なんだよ。

一緒に死んでよ。お願いだからっ・・・」

 

ナナシが泣き笑いの表情を浮かべていた。

ゆっくり目が霞んだ。

 

なんだか、

死んでやらなくてはいけない気がした。

 

そして目が覚めた時、ありがちな話だが、

僕は病院のベッドの上だった。

 

アキヤマさんが呼んで来てくれた

大人たちに、助けられたようだ。

 

火事も幸いひどくならず、

僕も気を失っただけで済んだ。

 

アキヤマさんは全容を大人に

話はしなかったようで、

 

ただの火遊びによる火事だと

思われたらしく、

 

僕は親父にめちゃくちゃ叱られた。

 

そして大人たちの話では、

僕は家の庭に寝かせられていたそうで、

だから怪我も何も無かったらしい。

 

「・・・あいつは?」

 

そう尋ねると、

大人は顔を曇らせながら、

 

「火元の部屋で手首を切っているのが

見つかった」

 

と教えてくれた。

 

幸い命に別状は無いらしいが、

「しばらく入院した後に、

隣りの市に住む親戚に引き取られる」

と聞いた。

 

「火事を起こしてしまったから、責任感じて

発作的に自殺しようとしたんだ」

 

と言われていたが、それは違う。

 

ナナシは最初から死ぬつもりだった。

僕を巻込んで。

 

そう思うと、

許せないという気持ちが

沸いてきた。

 

殺されそうになったこともそうだが、

結局最後は一人で死のうとしたことが

許せなかったのだと、今は思う。

 

親友だと思っていたのに、

いろんな意味で裏切られた。

 

それが許せなかったんだと思う。

 

結局僕は、その後ナナシと

一度も逢うことはなかった。

 

一度も逢うことのないまま、

あいつは死んだ。

 

理由はよく知らないが、

自殺ではなく事故死だったそうだ。

 

あれから数年が経ち、

アキヤマさんは去年めでたく結婚し、

僕は少し寂しい思いをしたりした。

 

そんな中で思う。

 

あの頃、

ナナシがしようとしていたことを

止めていられたなら、

 

ナナシが怯えていたことに

気付いていたなら、

 

ナナシは今頃、

こんな冷たい石の下にいることなんか

無かったのかもしれないと。

 

ただ、それは全部後の祭りでしかない。

どうすることも出来ない。

 

だからせめて忘れないように、

ナナシの話を書いてきたが、

それも最後になる。

 

僕と、僕の親友の話は、

これで本当におしまい。

 

(終)

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One Response to “屋上にはナナシが居た 2/2”

  1. あおば より:

    不思議な子ですね~。

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