ノック 9/10

足やライトを持つ手が

震えているのが分かった。

 

恐怖では無い。

ただ、身体が震えていた。

 

息をするのも辛くなって、

僕は二人に背を向けた。

 

その時、初めて自分が

泣いているのだと知った。

 

嗚咽もなく、ぼろぼろと

涙だけがこぼれた。

 

涙は熱く、

頬に熱を感じる。

 

怖くは無い。

悲しくもない。

感動しているわけでもない。

 

よく分からない。

 

ただ、強いて言うなら、

『痛いから』だった。

 

自分の中の芯の部分が、

 

ネズミのような何かに集団で

かじられているような。

 

そんな気分だった。

 

頭上からライトの光が降って来る。

Sだった。

 

自分が照らされていることを知り、

僕は俯いて涙を拭った。

 

身体の震えは

いつの間にか消えていた。

 

梯子を伝って上へと登る。

 

震えは止まったけれど、

思うように身体が動かず、

 

えらく時間をくった上に、

最後はSに引っ張り上げてもらった。

 

Sは何も言わなかった。

 

僕が落ち着くまで待つつもり

なのだろう。

 

ふと玄関の方を見やると、

 

家の中を隠すように

戸が玄関に立て掛けられていた。

 

「ごめん・・・。もう大丈夫」

 

そして、僕はSについ先ほど見てきた

光景を話した。

 

S「そうか」

 

Sの感想は

ただそれだけだった。

 

僕はずっと考えていた。

 

それは、僕がどうしてあの二人を

見つけることが出来たかについてだった。

 

偶然だったのか。

または必然だったのか。

 

僕が無意識下でまたやらかしたのか。

 

それともあの二人に、

もしくはどちらかに、

 

呼ばれたからだろうか。

 

答えは出なかった。

 

僕はポケットから携帯を取り出す。

 

S「止めとけよ」

 

その次の行動を見透かしたように

Sが言った。

 

「・・・何を?」

 

S「警察に通報するつもりだろう」

 

「・・・そうだけど。どうして?」

 

S「俺が警察なら、

お前を真っ先に疑う」

 

その口調には

何の力も込められていおらず、

 

ただ、いつも通りの

Sの言葉だった。

 

S「あの二人をここに閉じ込めて

殺した犯人としてな。

 

ノックの音が聞こえたんで

それで来ました、

 

なんて言ってみろ。

 

それこそ、精神異常者として

扱われるのがオチだ。

 

まあ、色モノが大好きな世間様には

気に入られるだろうが」

 

「それじゃあ、公衆電話から・・・」

 

S「そんな電話、

こちらから名乗れない以上、

 

イタズラと思われて終いだろう。

 

警察はイタズラ電話多いからな」

 

「じゃあ、どうすんのさ・・・、

 

だからって、このままに

しとくわけにはいかないしさ」

 

すると、Sはゆっくり息を吸って、

こう言った。

 

S「何がいけないんだ?」

 

それは予想もしなかった言葉だった。

 

「何がって・・・」

 

S「俺は別に良いと思うけどな。

このままでも。

 

親子水入らずで過ごせるんだ。

別に悪いことじゃないだろ」

 

僕はあの二人の姿を思い出す。

 

二人で寄り添い、

 

一つの布団に入って眠っていた

あの姿を。

 

ここで親子の居場所を

外に教えることは、

 

あの二人の間を裂くことになる

のではないか。

 

何故いけないのか。

そうだ、何故いけないのだろうか。

 

僕は答える。

 

「・・・やっぱり、駄目だ。

知らせよう」

 

病弱な息子を守りたい、

危険から遠ざけたいとした母親。

 

でも、息子の方からすれば

どうだったのだろう。

 

生きている頃も、

 

窓の無い部屋で

ずっと母親に守られ、

 

死んでからも、

 

こうして母の手に

抱かれている。

 

「あのさ・・・、

 

性懲りもなくって

思うかもしれないけんど・・・。

 

僕が聞いたノックの音って、

 

あの男の子が僕を

呼んだんじゃないか、

 

って思うんよ」

 

芋つぼの扉を叩いた、

弱々しくもはっきりとしたあの音。

 

あれは『外に出たい』意志の

表れではないだろうか。

 

「あの子が生前、

 

病気で思うように外に

出られなかったとしたら。

 

死んで身体から離れた今だから、

自由にしてあげたいじゃない。

 

・・・でも、あれだけ母親に

大事に抱え込まれてたらさ、

 

それも出来ないんじゃないかなぁって・・・

 

だから、何と言うか、

 

お母さんの方も、

子離れしないといけないのかなぁ、

 

てね?」

 

最後の方は、何か言ってて

自分で恥ずかしくなったのだけれど、

 

Sは黙って聞いてくれた。

 

そして「ふー」と、

 

欠伸ともため息ともつかない

息を吐くと、

 

S「親の心子知らず、

されど子の心親知らず、

ってか」

 

と小さく呟いた。

 

S「分かった。

好きにすりゃあいいさ。

 

ただ、直接警察に言うのは

止めとけよ。

 

見知らぬ親子のために、

色々犠牲にすることは無いからな」

 

じゃあ、一体

どうすればいいんだろう。

 

そんなことを思っていると、

いきなりSが立ち上がり、

 

未だ開いていた扉から

穴の中に片足を入れた。

 

「え?わ、何、どうすんの?」

 

慌てる僕を横目に、

 

身体の半分ほど穴に下りた

Sは一言、

 

S「まあ、任せておけばいい」

 

と言って、

さっさと降りて行ってしまった。

 

穴の下を覗き込むも、

Sが何をしているのか分からない。

 

と言うよりも、

 

Sはあの空間に居て

平気なのだろうか。

 

しばらくして、

Sが梯子を上がって戻って来た。

 

やはりというか、

当然だけれど、

 

その表情には動揺が見えた。

 

でも、僕ほど取り乱した様子もない。

 

S「流石保存用の土蔵だな。

 

イモだけじゃなくて、

人間も保存出来るのか・・・」

 

それから、Sは携帯の写メを使って

色々家の中を撮り始めた。

 

あっちの部屋に行ったと思ったら

こっちの部屋に行き、

 

芋つぼの様子を

真上から撮影して、

 

最後に外に出て、

家全体の様子を映して、

 

ようやく何かが終わったらしい。

 

(続く)ノック 10/10へ

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