おいぼ岩 4/4

ジャンケンして負けた僕が

Kを背負う。

 

脱力した人間というのは、

すごく重いのだな。

 

S「・・・そういや、これ、

おいぼだな」

 

と、車に向かう間に

Sがぼそりと呟いた。

 

確かにそうだと僕も思った。

だからどうしたとも思った。

 

結局Kが起きたのは、

走行中の車の中だった。

 

その時、僕とSは、

 

明日になってKが起きない様なら

病院に連れて行こう、

 

と相談していたところだったので、

 

突然Kが飛び起きた時は

びっくりした。

 

若干、車も左右に揺れた。

 

K「お・・・だっ、は。って、

ここは・・・車の、中か?」

 

Kは明らかに混乱していたが、

 

ここがSの運転する車の中だと

僕が説明すると、

 

とりあえず落ち着いた様だった。

 

そうしてKは僕の方を見やり、

 

K「・・・お前、あれ、見たか?」

 

僕は頷く。

 

僕が見たもの。

Kが見たもの。

 

『あれ』 が何を指しているかは、

分かり切っていた。

 

K「何処まで見た?」

 

「転がり落ちる寸前まで」

 

K「・・・あー。そうか。

そら良かったっつーか。

 

・・・俺は全部、最後までだ。

・・・ヤバかった」

 

言葉が出なかった。

 

Kは、『あれ』 を全部体験した

と言うのだろうか。

 

僕たち二人の様子に、

 

運転席のSは何か言いたそうな

顔をしていたが、

 

結局何も言わず、

 

ハンドル操作に専念することに

した様だ。

 

「『あれ』 は一体何なんだろう・・・」

 

僕はひとり言のように呟いた。

 

K「・・・岩の記憶か、罪人の記憶か。

たぶん、岩の数だけあるんだろうぜ・・・」

 

Kはシートの上に胡坐をかき、

下方向へと大きく息を吐く。

 

K「途中までしか見てないんだろ?

続きを教えてやるよ」

 

唾を飲み込む音が

僕自身のものだと気づく。

 

K「・・・ころんころん転がって転がってよ、

途中で右の手と左の足が飛んだな。

 

正直、漏らしてた。

 

ここでじゃねーぞ、

『あの中』での話だ」

 

例え漏らしたって馬鹿にはしない。

 

僕も怖かった。

死ぬと思った。

 

実際、あのまま転がっていたら、

 

少なくとも『あの中』で僕だった

罪人は死んだだろう。

 

しかし、Kが次に言った言葉は

僕の予想とは違っていた。

 

K「ぜってー死ぬだろこれ、

と思った。

 

でもな・・・。

 

俺の岩の奴は、

死ななかったんだ」

 

「・・・え?」

 

K「転がり終えても、生きてた。

 

だから良かったっつーか、

岩の形か転がり方が良かったっつーか、

運が良かったっつーか・・・。

 

死んでたら、ヤバかったな。

たぶん、俺、ここに居ねーだろ」

 

そしてKはぶるぶると

身体を震わせて、

 

その震えを口から絞り出すように

再度大きく長く息を吐いた。

 

死んでいたら、ヤバかった。

 

おかしな言葉だが、

言いたいことは分かる。

 

『あれ』は、それだけ

リアルな体験だった。

 

もしも夢と現実の間に

何かあるとしたなら、

 

『あれ』はその類のものだと思う。

 

長い息を吐き終えた後、

Kはすっと顔を上げた。

 

K「大して期待もしてなかった

おいぼ岩が、まっさかあんなに

やべーもんだとはな・・・」

 

僕は深く頷く。

Kも頷く。

 

K「・・・全く、

いい経験をしたもんだぜい」

 

車内から一瞬、

一切の音が消えた様な気がした。

 

僕は脳内で

先程のKの言葉を復唱する。

 

でも意味が分からない。

もう一度。

 

それでも意味が分からない。

もう一度。

 

K「当たりもアタリ、大当たりじゃん?

噂広めれば、すっげースポットになるぜあそこ。

 

あんな風に死にかけるなんて、

中々出来ることじゃねーしな!」

 

車内にパッと光が灯る。

 

見ると、Kが顎の下で

懐中電灯を構えていた。

 

K「いやあー、不思議なことって、

本当にあるもんですねぇ」

 

そう言ってKは嬉しそうに

「うははは」と笑った。

 

Sが「・・・このまま病院行くか?」と

小声で僕に囁いた。

 

僕は力なく首を振る。

 

「深夜の病院なんて、

絶対喜ばせるだけだって・・・」

 

その後、僕は窓の外を見やり

ふと考える。

 

もしKが縛られた岩が『死ぬ岩』で、

罪人と一緒にKまで死んでいたら

 

どうなっていただろう。

 

もしあのままKが眠ったまま

起きなかったとしたら。

 

散々悩んで想像して、

僕なりに辿り着いた結論は・・・。

 

『それでも馬鹿は治らなかっただろう』

 

だった。

 

たぶん、僕はまたKを

おいぼするハメになるのだろう。

 

僕が吐いたため息は、

 

車の窓に僅かの白い跡を残したきり、

すぐに消えていった。

 

(終)

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