リゾートバイト(本編)5/14

沈黙の中、急に携帯のアラームが鳴った。

いつも俺達が起きる時間だった。

 

Bの体がビクンってなって、

相当怯えているのが伺えた。

 

Bは根がすごく優しいやつだから、

前の晩、俺に言ったんだ。

 

B「ごめんな。俺なんかより、

お前の方が全然怖い思いしたよな。

それなのに俺がこんなんでごめん。

助けに行かなくて本当ごめん」

 

俺は、それだけで本当に嬉しくて、

目頭が熱くなった。

 

でも、よくよく考えてみると、

『俺なんかより怖い思い』ってなんだ?

 

実際に恐怖の体験をしたのは俺だし、

AもBも下から眺めていただけだ。

 

もしかしてあれか?

俺の階段を駆け下りる姿がマズかったか?

 

普通に考えて、俺の体験談が

恐ろしかったってことか?

 

少し考えて、俺も大概、恐怖に呑まれて

相手の言葉に過敏になりすぎてると思った。

 

こんな時だからこそ、早く帰って

みんなで残りの夏休みを楽しくゆっくり

過ごそうと、そればかりを考えるようにした。

 

だが、その後のBの怯えようは、

半端なかった。

 

俺達がたてる音一つ一つに反応したり、

俺の足の傷を食い入るように

じっと見つめたり、

明らかに様子がおかしかった。

 

Aも普段と違うBを見て、

多少びびりながらも心配したんだろう。

 

A「おい、大丈夫か?寝てないから

頭おかしくなってんのか?」

 

と問いかけながら、Bの肩を掴んだ。

 

すると、Bは急に「うるさいっ!!」と叫び、

Aの腕をすごい勢いで振り払ったんだ。

 

Aと俺は一瞬、沈黙した。

 

「おい、どうしたんだよ?」

 

Aは、急の出来事に驚いて、

声を出せずにいた。

 

B「大丈夫かだって?

大丈夫なわけねーだろ?

俺も○○(俺の名前)も、

死ぬような思いしてんだよ。

何にもわかってねーくせに

心配したふりすんな!!」

 

Aを睨みつけながら、そう叫んだ。

何を言ってるんだろうと思った。

 

Bの死ぬ思いってなんだ?

 

俺の話を聞いて、

恐怖してたわけじゃないのか?

 

AとBは仲間内でも

特に仲が良かったんだが、

その関係もAがBをいじる感じで、

どんな悪ふざけにもBは怒らず

調子を合わせていた。

 

だからBがAに声を荒げる場面なんか

見たことなかったし、もちろん当の本人Aも、

そんな経験なかったんだと思う。

 

Aは、これも見たことないくらいに

オロオロしていた。

 

俺は疑問に思ったことを、Bに問いかけた。

 

「死ぬ思いってなんだ?

お前ずっと下にいたろ?」

 

B「いたよ。ずっと下から見てた」

 

そして少し黙ってから、

下を向いて言った。

 

B「今も見てる」

 

「・・・」

 

今も?え、何を?

俺は訳がわからない。

 

全然わからないんだが、よくある話で、

Bの気が狂ったんだと思った。

何かに取り憑かれたんだと。

 

そんな思いをよそに、Bは震える口調で、

でもしっかりと喋りだした。

 

B「あの時、俺は下にいたけど、

でもずっと見てたんだ」

 

「上っていく俺だよな?」

 

B「違うんだ・・・いや、

始めはそうだったんだけど。

お前が階段を上りきったくらいから、

見え出したんだ」

 

「・・・うん」

 

本当は、このとき俺の心の中は、

聞きたくないという気持ちが

大半を占めていた。

 

でもBは、もうこれ以上一人で抱えきれない

という表情で、まるで前の日の自分を

見ているようだったんだ。

 

あのとき、俺の話を最後まで

ちゃんと聞いてくれたAとB。

 

あれで自分がどれだけ救われたかを考えると、

俺には聞かなくちゃならない義務が

あるように思えた。

 

「何が、見えたんだ?」

 

B「・・・」

 

Bはまた少し黙りこみ、

覚悟したように言った。

 

B「影・・・だと思う」

 

「影?」

 

B「うん。初めはお前の影だと思ってたんだ。

けど、お前がしゃがみこんで残飯を

食っている間にも、ずっと影は動いてたんだ。

お前の影が小さくなるのはちゃんと見えたし、

自分らの影も足元にあった。

それで、それ以外に動き回る影が・・・

3つ・・・いや、4つくらいあった」

 

俺は、全身にブワッと鳥肌が立つのを感じた。

どうか、これがBの冗談であってくれと思った。

 

しかし今、目の前にいるBは、

とてもじゃないが

冗談を言っているように見えなかった。

 

むしろ、冗談という言葉を

口に出したとたんに、

殴りかかってくるんじゃないか

ってくらいに真剣だった。

 

「あそこには、俺しかいなかった」

 

B「わかってる」

 

「そもそも、あのスペースに人が

4、5人も入って動き回れるはずない」

 

あの階段は、人が一人通れるくらいの

スペースだったんだ。

 

B「あれは人じゃない。

それくらい、わかるだろ」

 

「・・・」

 

B「それに、どう考えても人じゃ無理だ」

 

Bはポツリと言った。

 

「どういうことだ?」

 

B「全部、壁に張り付いてた」

 

「え?」

 

B「蜘蛛みたいに、全部、

壁の横とか上に張り付いてたんだ。

それで、もぞもぞ動いてて、

それで、それで・・・」

 

自分の見た光景を思い出したのか、

Bの呼吸が荒くなる。

 

「落ち着け!深呼吸しろ。

な?大丈夫だ、みんないる」

 

Bは、しばらく興奮状態だったが、

落ち着きを取り戻して、また話しだした。

 

B「あれは人じゃない。いや、

元から人じゃないんだけど、

形も人じゃない。いや、

人の形はしてるんだけど、違うんだ」

 

Bが何を言いたいのか

なんとなくわかった俺は、

 

「人間の形をしたなにかが、

壁に張り付いてたってことか?」

 

と聞いた。

Bは、黙って頷いた。

 

(続く)リゾートバイト(本編)6/14へ

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