リゾートバイト(本編)6/14
口から飛び出そうなくらいに
心臓の鼓動が激しくなった。
とっさに、Bが見たのは
影じゃないと思った。
影が、横や上の天井を
動き回るのは不自然だ。
仮にそれが影だったとしても、
確実にそこに何かがいたから
影が出来たんだ。
それくらい、バカの俺でもわかる。
ということは、俺は自分の周りで
這い回る何かに気づかず、
しかも腐った残飯を
モリモリと食べていたってことなのか?
あの音は・・?
あの、ガリガリと壁を引っ掻く音は、
壁やドアの向こう側からじゃなくて、
俺のいる側のすぐ傍で鳴っていた
ということか?あの呼吸音も?
恐怖のあまり、頭がクラクラした。
そんな俺の様子を知ってか知らずか、
Bは傍に立っていたAに向き直り、
B「ごめん、さっきは取り乱して。
悪かった」
と謝った。
A「いや、大丈夫・・・
こっちこそ、ごめんな」
Aも、すかさず謝った。
その後、なんとなく気まずい雰囲気だったが、
俺は平静を保つのに必死だった。
無意味に深呼吸を繰り返した。
そんな中、Aが口を開いた。
A「お前さ、さっき
今も見てるって言ったけど」
Bは、Aが言い終わらないうちに
答えた。
B「ああ、ごめん。あれはちょっと、
錯乱してたんだわ。ははっごめん、
今は大丈夫」
そう言ったBの笑顔は、
完全に作り笑いだった。
明らかに無理した笑顔で、目はどこか
違うところを見ているようだった。
関係ないんだが、このとき何故か、
ものすごい印象的だったのは、
Bの目の下がピクピクしてたことだ。
こんなん何人かに一人は、
よくあることだよな?
だけど、無理して笑う人の
目の下ピクピクは、結構くるものがあるぞ。
話を戻すと、Aと俺は、
それ以上聞かなかった。
臆病者だと思われても仕方ない。
だけど怖くて聞けなかったんだ。
ちょっと考えてみろ、ここまで話したBが
敢えて何かを隠すんだぞ。絶対無理だろ。
聞いたら、俺の心臓砕け散るだろ。
それこそ俺が発狂するわ。
少しの沈黙の後、広間の方から
美咲ちゃんが朝飯の時間だと俺達を呼んだ。
3人で話している間に、
結構な時間が過ぎていたらしい。
正直、食欲などあるはずもなく。
だが、不審に思われるのは嫌だったし、
行くしかないと思った。
俺はのっそりと立ち上がり、
二人に言った。
俺「なるべく早い方がいいよな。
朝飯食い終わったら言おう」
A「そうだな」
B「俺、飯いいや。Aさ、
ノートPC持って来てたよな?
ちょっと貸してくれないか?」
A「いいけど、朝飯食えよ」
B「ちょっと調べたいことがあるんだ。
あんまり時間もないし、
悪いけど二人で行ってきて」
俺「了解。美咲ちゃんに頼んで、
おにぎり作ってもらってきてやるよ」
B「うん、ありがと」
A「パソコンは俺のカバンの中に
入ってる。勝手に使っていいよ。
ネットも繋がるから」
そう言って俺達は、
そのまま広間に行った。
後から考えると、辞めるその日の
朝飯食うってどうなの?
他人がやってたら絶対突っ込むくせして、
俺ら普通に食べたんだが。
広間に着くと、女将さんが俺らを見て、
更には俺の足元を見て、
満面の笑顔で聞いてきたんだ。
「おはよう、よく眠れた?」って。
そんな言葉、初日以来だったし、
昨日のこともあったから
すごい不気味だった。
びびった俺は、
直立不動になってしまったわけだが、
Aが「はい。すみません遅れて」と
返事をしながら、俺のケツをパンと叩いた。
体がスっと動いた。
いつも人一倍びびってたAに、
助け舟を出してもらうとは
思わなかったから、正直驚いた。
そしてBが体調不良のため、
まだ部屋で寝ていることを伝え、
美咲ちゃんに、
おにぎりを作ってもらえるよう頼んだ。
「あ、いいですよ。それよりBくん、
今日は寝てた方がいいんじゃ」
美咲ちゃんは心配そうに、そう言った。
Aと俺は、特に何も言わず席についた。
『もう辞めるから大丈夫』
とは言えないからな。
朝飯を食っている間、女将さんはずっと
ニコニコしながら俺を見てた。
箸が完全に止まってるんだ。
俺ときどき飯、みたいな。
美咲ちゃんも旦那さんも、
その異様な光景に気づいたのか、
チラチラ俺と女将さんを見てた。
Aは言うまでもなく凝固。
凄まじく気分の悪くなった俺達は
朝飯を早々に切り上げて、
女将さん達に話をするため
部屋にBを呼びに行った。
部屋に戻る途中、
Bの話し声が聞こえてきた。
どうやらどこかに
電話をしているようだった。
俺達は、電話中に声をかけるわけにも
いかなかったので、部屋に入り座って
電話が終わるのを待った。
B「はい、どうしても今日がいいんです。
・・・はい、ありがとうございます!
はい、はい、必ず伺いますので
よろしくお願いします」
そう言って電話を切った。
どうやらBは、ここから帰ってすぐ、
どこかへ行く予定を立てたらしい。
俺もAも、別に詮索するつもりは
なかったんで何も聞かず、
すぐにBを連れて広間に向かった。
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