リゾートバイト(本編)8/14

旅館から少し離れると、急にBが運転手に

行き先を変更するよう言ったんだ。

 

運転手に何かメモみたいなものを渡して、

「ここに行ってくれ」と。

 

運転手は、メモを見て

怪訝な顔をして聞いてきた。

 

「大丈夫?結構かかるよ?」

 

B「大丈夫です」

 

Bはそう答えると、後部座席で

キョトンとしているAと俺に向かって、

 

B「行かなきゃいけないとこがある。

お前らも一緒に」と言った。

 

俺とAは顔を見合わせた。

考えてることは一緒だったと思う。

 

どこへ行くんだ・・?

 

だが、朝のBの様子を見た後だったんで、

正直、気が引けて何も聞けなかった。

 

またキレ出すんじゃないかと

びびってたんだ。

 

しばらく走っていると、

運転手さんが聞いてきた。

 

「後ろ走ってる車、

お客さんたちの知り合いじゃない?」

 

え?と思って振り返ると、

軽トラックが一台

後ろにぴったりくっついて走っていた。

 

そして中から手を振っていたのは、

旦那さんだった。

 

俺達は何か忘れ物でもしたのかと思い、

車を止めてもらえるよう頼んだ。

 

道の端に車が止まると、旦那さんも

そのまますぐ後ろに軽トラを止めた。

 

そして出てくると俺達のところに来て、

「そのまま帰ったら駄目だ」と言った。

 

B「帰りませんよ。こんな状態で

帰れるはずないですから」

 

Bと旦那さんは、やけに話が通じあっていて、

Aと俺は完全に置いてけぼりを食らった。

 

「え、どういうこと?」

 

なにがなにやらわからんかったので、

素直に質問した。

 

すると旦那さんは俺の方を向き、

まっすぐ目を見つめて言った。

 

「おめぇ、あそこ行ったな?」

 

心臓が、ドクンって鳴った。

なんで知ってんの?

 

この時は本気で怖かった。

 

霊的なものじゃなくて、

なんていうか、大変なことをしてしまった

っていう思いがすごくて。

 

俺は「はい」と答えるだけで、精一杯だった。

 

すると旦那さんは、

ため息をひとつ吐くと言った。

 

「このまま帰ったら

完全に持ってかれちまう。

なぁんであんなとこ行ったんだかな。

まあ、元はと言えば、俺がちゃんと

言わんかったのが悪いんだけどよ」

 

おい、『持ってかれる』ってなんだ。

勘弁してくれよ。

 

ここから帰ったら、楽しい夏休みが

待ってるはずだろ?

 

不安になってAを見た。

Aは驚くような目で俺を見ていた。

 

さらに不安になってBを見た。

するとBは言うんだ。

 

B「大丈夫。これから御祓いに行こう。

そのために、もう向こうに話してあるから」

 

信じられなかった。

憑かれてたってことか?

 

何だよ俺死ぬのか?

この流れは死ぬんだよな?

 

なんであんなとこ行ったんだって?

行くなと思うなら始めから言ってくれ。

 

あまりの恐怖で、自分の責任を

誰か他の人に転嫁しようとしていた。

 

呆然としている俺を横目に、

旦那さんは話を進めた。

 

「御祓いだって?」

 

B「はい」

 

「おめぇ、見えてんのか」

 

B「・・・」

 

A「おい、見えてるって・・・」

 

B「ごめん。今はまだ聞かないでくれ」

 

俺は思わずBに掴みかかった。

 

「いい加減にしろよ。

さっきから何なんだよ!」

 

旦那さんが割って入る。

 

「おいおい止めとけ。おめぇら、

逆にBに感謝しなきゃならねぇぞ」

 

A「でも、言えないってこと

ないんじゃないすか?」

 

「おめぇらは、まだ見えてないんだ。

一番危ないのはBなんだよ」

 

俺とAは、揃ってBを見た。

Bは困ったような顔をして、そこにいた。

 

「どうしてBなんですか?

実際あそこに行ったのは俺です」

 

「わかってるさ。でも

おめぇは見えてないんだろ?」

 

「さっきから見えてるとか

見えてないとか、なんなんですか?」

 

「知らん」

 

「はぁ!?」

 

トンチンカンなことを言う旦那さんに

対して、俺はイラっとした。

 

「真っ黒だってことだけだな、

俺の知ってる情報は。だがなぁ・・」

 

そう言って、旦那さんはBを見る。

 

「御祓いに行ったところで、

なんもなりゃせんと思うぞ」

 

Bは、疑いの目を旦那さんに向けて聞いた。

 

B「どうしてですか?」

 

「前にもそういうことがあったからだな。

でも、詳しくは言えん」

 

B「行ってみなくちゃ

わからないですよね?」

 

「それは、そうだな」

 

B「だったら」

 

「それで駄目だったら、

どうするつもりなんだ?」

 

B「・・・」

 

「見えてからは、

とんでもなく早いぞ」

 

『早い』という言葉が

何のことを言っているのか、

俺にはさっぱりわからなかった。

 

だが、旦那さんがそう言った後、

Bは崩れ落ちるようにして泣き出したんだ。

声にならない泣き声だった。

 

俺とAは、傍で立ち尽くすだけで

何も出来なかった。

俺達の異様な雰囲気を感じ取ったのか、

タクシーの窓を開けて

中から運転手が話しかけてきた。

 

「お客さんたち大丈夫ですか?」

 

俺達3人は何も答えられない。

Bに限っては、道路に伏せて泣いてる始末だ。

 

すると旦那さんが、

運転手に向かってこう言った。

 

「あぁ、すまんね。呼び出しておいて

申し訳ないんだが、こいつらは

ここで降ろしてもらえるか?」

 

運転手は「え?でも・・」と言って、

俺達を交互に見た。

 

その場を無視して旦那さんは、

Bに話しかける。

 

「俺がなんでおめぇらを

追いかけてきたか、わかるか?

事の発端を知る人がいる。

その人のとこに連れてってやる。

もう話はしてある。

すぐ来いとのことだ。

時間がねぇ。俺を信じろ」

 

肩を震わせ泣いていたBは、

精一杯だったんだろうな、

顔をしわくちゃにして

声を詰まらせながら言った。

 

B「おねが・・っ・・します・・・」

 

呼吸が出来ていなかった。

 

男泣きでもなんでもない、

泣きじゃくる赤ん坊を見ているようだった。

 

昨日の今日だが、Bは一人で

何かものすごい大きなものを

抱え込んでいたんだと思った。

 

あんなに泣いたBを見たのは、

後にも先にもこの時だけだ。

 

Bのその声を聞いた俺は、

運転手に言った。

 

「すいません。ここで降ります。

いくらですか?」

 

その後、俺達は旦那さんの軽トラに

乗り込んだ。

 

(続く)リゾートバイト(本編)9/14へ

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