家鳴り 1/3

ランプ

 

大学2回生の夏のこと。

 

俺は心霊写真のようなものを友人に貰ったので、

それを専門家に見てもらおうと思った。

 

専門家と言っても、

俺のサークルの先輩であり、

 

オカルトの道では師匠にあたる、

変人である。

 

彼のアパートにお邪魔すると、

さっそく写真を取り出したのであるが、

 

それを手に取るや否や、

鼻で笑って、

 

「2重露光」

 

との一言で突き返してきた。

 

友人のおじいちゃんが愛犬と

写っているその後ろに、

 

ぼやっと人影らしきものが

浮かび上がっているのであるが、

 

師匠はそれをあっさりと

撮影ミスであると言い切ったのだ。

 

俺は納得いかない思いで、

 

「それならいつか見せてもらった写真にだって、

似たようなのあったでしょう」

 

と言った。

 

その筋の業者から買ったという心霊写真を、

山ほど師匠は持っているのだ。

 

ところが首を振って、

 

「今ここにはない」

 

と言う。

 

俺は狭いアパートの部屋を見回した。

 

その時、

 

ふとこれまでに見せてもらった

薄気味の悪いオカルトアイテムが、

 

どこにもないことに気がついたのだ。

 

いくつかは押入れに

入っているのかも知れない。

 

しかし、

 

一度見たものがまた部屋に転がっている

ということがなかったのを思い出す。

 

「どこに隠してるんです」

 

師匠は気味悪く笑って、

 

「知りたい?」

 

と首を傾げた。

 

素直に「はい」と言うと、

 

「じゃあ、

夜になるまで待とうな」

 

と言って、

師匠はいきなり布団を敷いて寝始めた。

 

俺は呆気にとられて一度家に帰ろうとしたが、

なんだかめんどくさくなり、

 

そのまま床に転がって、

やがて眠りについた。

 

気がつくと、

 

暗い部屋の中にぼうっと淡い光を放つ

奇妙な形の仏像がひしめいていて、

 

師匠が包まっている布団が

部屋の真ん中に浮かんでいる。

 

という、

 

なんとも荒唐無稽な夢を見てうなされ、

俺は目を覚ました。

 

※荒唐無稽(こうとうむけい/ことわざ)

言動に根拠がなく、現実味のないこと。また、そのさま。

 

暑さと寝苦しさのためか、

うっすら汗をかいている。

 

当然部屋には、

 

仏像や師匠のオカルトコレクションの

類は出現しておらず、

 

部屋のヌシも床の上の布団で

寝ているのだった。

 

「もう夜ですよ」

 

と揺り起こすと、

窓の外をぼうっと見て、

 

「おお、いいカンジの時間」

 

とぶつぶつ呟き、

師匠は布団から這い出てきた。

 

「ボキボキ」

 

と口で言いながら背伸びをしたあと、

 

師匠は着替えもせずに

俺をアパートの外へ連れ立った。

 

深夜である。

 

特に荷物らしきものも持っていない。

 

ボロ軽四に火が入る。

 

助手席で「どこ行くんスか」と問うと、

アクセルを踏みながら「隠れ家」と言う。

 

「え」

 

それが存在することは

想像ついていたことだが、

 

ついに招待してくれるほどの

信頼を得られたらしい。

 

そもそも、

盗むほどのものがないと言って、

 

家賃9000円のボロアパートに

鍵も掛けずに出かけたりする人なのに、

 

関西の業者から買ったなどと言っては、

 

おどろおどろしい逸話のある古道具などを、

嬉しそうに自慢することが多々あった。

 

なるほど、

 

それらを隠している場所が

別にあったわけである。

 

北へ北へと車は向かい、

 

すれ違うライトもほとんどない

山道を蛇行しながら、

 

俺はある感覚に襲われていた。

 

ふつふつと肌が粟立つような寒気である。

 

原因はわかっている。

 

単純に怖いのだ。

 

人間の恨みや悪意が凝った塊が、

この向かう先にある。

 

心の準備も出来ていない。

 

視線の端の境界面に、

白いモヤのような揺れる人影のようなものが、

 

通り過ぎては瞬くように消えていく

ような錯覚があり、

 

俺は目を閉じる。

 

師匠もなにも言わない。

 

ただタイヤがアスファルトを擦る音と、

 

そのたびに体を左右に引っ張られる

感覚だけが続いた。

 

やがて、「着いた」という

声とともに車が止まり、

 

促されて外に降りる。

 

山間の一軒屋という、

趣の黒い影が目の前に立っている。

 

少し斜面を降りたあたりに、

別の家の明かりがある。

 

しかし、

 

少なくとも半径20メートル以内には、

人の気配はない。

 

『取り残された家』

 

という言葉がふいに浮かび、

ますますその不気味さが増した気がした。

 

「家賃は1万1000円」

 

と言いながら玄関の前に立ち、

 

師匠はライオンの顔の形をしたノッカーを、

さも当然のように叩く。

 

鈍い金属音がした。

 

中からは何の応えもない。

 

その音の余韻が消えるまで待ってから、

 

「冗談だよ」

 

と言って師匠は鍵を回し、

その洋風のドアを開けた。

 

平屋でかなり古びているとはいえ、

まともな一軒屋である。

 

家賃1万1000円というのは、

 

どんなツテで借りたのか

非常に興味があったが、

 

なんとなく答えてくれそうに

ない気がして黙っていた。

 

家の近くに街灯の類もなく、

ほとんど真っ暗闇だったのが、

 

家の中に入ると、

当然明かりが点くだろうと思っていた。

 

ところが、

玄関から奥へ消えた師匠が、

 

ゴソゴソとなにかを動かしている

音だけがしていたかと思うと、

 

淡いランプの光がゆらゆらと

人魂のように現れた。

 

「電気きてないから」

 

ランプを持った師匠らしき人影が、

埃っぽい廊下を案内する。

 

スリッパを履いて、

 

軋む板張りの床を足音を殺しながら

半ば手探りで追いかける俺は、

 

ほんとに借りてるのかこの人、

不法侵入じゃないのか、

 

という、

あらぬ疑念にとらわれていた。

 

「リヴィングだ」

 

という声がして、

 

ランプが部屋の中央の

テーブルらしきものの上に置かれる。

 

暗い室内を探索する気力もない俺は、

素直にランプのそばのソファに腰掛けた。

 

元は質のいいものなのかも知れないが、

 

今は空気が抜けたようにガサガサして、

座り心地というものはない。

 

(続く)家鳴り 2/3

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