自殺するって言うなら、その前に僕に抱かれませんか? 1/3

屋上

 

「靴脱いでるし、これから飛び降りるんですよね?」

 

「おっしゃる通り、飛び降りようとしてましたけど。なんですか、あなた?」

 

「よかったあ!」

 

「はい?」

 

「だって自殺するんですよね。ここから飛び降りるってことは」

 

「そうですが」

 

「自殺するって言うなら、その前に僕に抱かれませんか?」

 

「はい?」

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「なかなか出会えないんですよね。これから死ぬって人に」

 

「……」

 

「しかも、僕は運がいい。こんな美人とめぐり会えるなんて」

 

「あの、飛び降りていいですか?」

 

「僕の話、聞いてたでしょう?」

 

「ええ。エッチがどうとか言ってましたね」

 

「フッ、そうです。僕の目的はただその一点のみです。安心してください。あなたの自殺を止める気なんて、僕にはこれっぽっちもありませんよ」

 

「帰ってもらっていいですか?」

 

「僕に帰る場所はありません。あるとしたら、あなたの胸の中だけです」

 

「もう飛び降りていいですか?」

 

「どうして!?」

 

「ご自分の胸に聞いてください」

 

「いいでしょう。あなたを止める資格は僕にはない。ただ、ひとつだけ聞かせてもらってもいいですか?」

 

「ひとつだけですよ」

 

「三日前って白のパンティー履いてました?」

 

「……はい?」

 

「『なぜ見ず知らずの男が、私の履いているパンティーの色を知っている?』。そんな顔をしてますね」

 

「あなた、なんなんですか」

 

「フッ、どこにでもいる素人童貞ですよ」

 

「それは聞いてません」

 

「なぜ僕があなたのパンティーについて知っているのか。簡単ですよ。あなたはここ一週間、このマンションの屋上から飛び降りようとしていた。そうですね?

 

「一週間も前から私のことを見ていたんですか」

 

「正確にはあなたではなく、あなたのスカートの中を、ですがね。あなたは飛び降り自殺を実行しようとしていた。しかし、いつもギリギリでやめてしまいますね」

 

「……」

 

「いやあ、一週間前にこのマンションを見上げた時は驚きましたよ。『あっ、パンツだ!』って」

 

「パンツだったんですか。真っ先にあなたの目に飛び込んできたのは」

 

「そりゃそうでしょう。なかなか無いんですからね。パンチラに出会う機会って」

 

「あなた、これから死ぬ人間によくそんなことを言えますね」

 

「逆ですよ。口無しになる人にだからこそ、思ったことをぶっちゃけてるんですよ」

 

「で、抱かせてくれ、ですか?」

 

「フッ、なんなら僕が抱かれてもいいですよ」

 

「結構です」

 

「うーむ。どうも、あなたは難しい人間のようですね」

 

「私は至って普通です。おかしいのはあなたでしょう。死後の世界にだって、初対面で抱かせてくれる人なんていませんよ」

 

「確かに。いきなり過ぎましたね」

 

「分かってもらえたならいいです。それじゃあ、さよなら」

 

「なんでまた飛び降りようとしてるんですか」

 

「死ぬからです」

 

「待ってくださいよ。まだ抱いてないんですから」

 

「あなたに抱かれるつもりはありません」

 

「今は、でしょう?」

 

「一生です」

 

「だから一生を終わらせようとしないで。僕の話、まだ終わってません。実はどうしても聞きたいことがあったんですよ」

 

「なんですか?」

 

「なぜ今日はスカートじゃないんですか?」

 

「何が言いたいんですか?」

 

「フッ、この建物の下から空を見上げるとね、見えるんですよ。太陽よりもまぶしいもの。あなたのパンツがね」

 

「あなた、どんだけパンツ好きなんですか」

 

「最近の僕にとっての一番の楽しみだったんですよ。それなのに、どうして……!?」

 

「別に。今日はスカートの気分じゃなかっただけです」

 

「たまたまスカートじゃなかった、そういうことですか?」

 

「そう言ってるでしょう」

 

「じゃあ、今からスカートに着替えて来てもらっていいですか?」

 

「そんな暇があるなら、さっさと死にます」

 

「なぜそんなに死に急ぐんですか?」

 

「死にたいからです」

 

「別によくないですか?どうせもう、あなたは死ぬんだから」

 

「どういうことですか?」

 

「死ぬって決めたら、心にゆとりが出来ません?」

 

「ゆとり、ですか」

 

「だって、これから何が起きても、あなたはここから飛ぶんですよ。いつでも人生をクリア出来るんだから、何が起きても安心でしょう?」

 

「ゼロになるというか、終わらせられるというか……結果は決まってます」

 

「つまり、大抵のことは許せますよね?」

 

「確かに。辿る結末は見えてますからね」

 

「じゃあ、僕に抱かれましょう」

 

「結局それですか」

 

「僕に抱かれるのがイヤなんですか?」

 

「イイと思うんですか、私が?」

 

「質問に質問は感心しませんね」

 

「あなたの言動よりはマシでしょう。でも、そうですね……」

 

「おやおや。ようやく僕を受け入れてくれますか」

 

「ええ。最期ぐらいは役に立つことをしてもいいかも知れません」

 

「話の理解が早い人で助かります」

 

「ええ。警察に通報します」

 

「フッ……」

 

「言っておきますけど、脅しとかじゃないですから」

 

「ほほう」

 

「こんな世の中です。女である私があなたを通報すれば、どうなるかは分かりますよね?」

 

「フッ、甘いですねえ」

 

「甘い?」

 

「あなたは自殺を図っていた。身元整理はしてるんじゃないですか?」

 

「それは……」

 

「携帯を解約したりとか、遺言書を残してたりすれば、自殺の証拠としては十分ですよね。ていうか、携帯を解約してたら警察に通報すら出来ませんけどね」

 

「うっ……」

 

「つまりあなたは、僕に抱かれて死ぬか、僕を通報してダラダラとこの世界で生きていくって選択肢しかないんですよ」

 

「どっちも地獄ですね」

 

「さあ、どうしますか?」

 

「……」

 

「大人しくしていれば、優しくしますよ」

 

「きゃあああああっ!誰か助けてえええ!!」

 

「ええっ!?これから死ぬくせに、なに助けを呼んでるんですか!?」

 

「あなたを出すとこに出して、それから死ぬことにしました」

 

管理人「何かあったんですか!?」

 

「!!」

 

「実はここに極めて特殊な変態が……」

 

管理人「なぜ裸足なんですか?」

 

「え?あ、いやその……ちょっと開放的な気分になりたくて……」

 

管理人「開放的な気分ねえ」

 

「ほ、本当です。あの、coccoとかそういう歌手の人の真似です」

 

管理人「悪いけど、屋上から出てもらってもいい?」

 

「……」

 

管理人「こんな世の中だと、ついつい暗い考えが浮かんでしまうんですよ」

 

「……分かりました」

 

管理人「お願いしますね」

 

「はい」

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「いやあ、ビックリしたあ」

 

「ひゃっ!?きゅ、急に声出さないでくださいよ」

 

「おっ。初めて驚いた顔をしてくれましたね」

 

「……悪いですか?」

 

「いえ、全然。それにしても、あなたが叫んだ瞬間に、おばさんが来たんで焦りましたよ」

 

「管理人さんです」

 

「思わず隠れてしまいましたよ」

 

「隠れたんですか?」

 

「おや?気づきませんでした?」

 

「管理人さんの方に気をとられてましたからね」

 

「靴のことを指摘されて焦ってましたね」

 

「……うるさいです。それより、どうやって隠れたんですか?」

 

「ん?」

 

「ここ、とっさに身を隠せる場所なんてありませんよ」

 

「あなたなら、塀の上から見慣れてると思うんですけど」

 

「私なら……あっ、そっか」

 

「気づきましたか?」

 

「屋上の塀の出っ張りに、とっさに隠れたんですね」

 

「正解です。小さな塀とは言え、よくとっさに隠れられたと思います」

 

「……」

 

「って、どこへ行くんですか?」

 

「屋上から出ます」

 

「あれれ?なんで?」

 

「管理人さんに言われたからです」

 

「屋上から出て、どうするんですか?」

 

「一旦、部屋に戻ります」

 

「え?死なないんですか?」

 

「…………」

 

「なるほど。そういうことですか」

 

「なんでそんなにニヤニヤしてるんですか?」

 

「これからあなたの部屋に行って、僕とあなたで……」

 

「違いますっ!」

 

「違うんですか?」

 

「そもそも、どうしてあなたを部屋に上げるんですか」

 

「……野外プレイがお好みということですね」

 

「自殺する前に、あなたを殺した方がいいかも知れませんね」

 

「犯罪者になると?」

 

「どうせ結末は同じですから」

 

「だったら、僕に抱かれてしまえばいいじゃないですか」

 

「もうその話は飽きました」

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「エレベーターに乗りましたけど、あなたの部屋って何階なんですか?」

 

「教えません」

 

「どうせこれから知りますよ」

 

「今、ここは何階でしょうか?」

 

「一階ですね。一階なんですが、あなたの部屋は?」

 

「いいえ。これから外に出ます」

 

管理人「おや。どこかへお出掛けですか?」

 

「ええ、ちょっと早めの夜ご飯を食べに」

 

管理人「そうですか。物騒な世の中ですから夜道には気をつけてください」

 

「ええ。実感している真っ只中なんで、気をつけます」

 

「ちょっとちょっと。マンションの外に出てるじゃないですか」

 

「やっぱり部屋には戻りません」

 

「どうして!?」

 

「この状況で聞けるって、あなた凄いですね」

 

「確かに僕は素人童貞ですけど、女性一人を満足させるぐらいのテクニックなら……!」

 

「死ね」

 

「僕たち会ってから、まだそんなに仲良くないですよ!?」

 

「抱かせてくれって言うよりはマシです。ていうか、自殺してください」

 

「ついには自殺勧告をするとは。しかも、なぜかマクドナルドに来てますし」

 

「今日の夕飯はここにします」

 

「え?」

 

「付いて来ても構いません。でも、ここで食べることは決定ですから」

 

「ハウスで食べるって選択肢は?」

 

「ありません」

 

「分かりましたよ。僕は食べませんけどね」

 

「……拗(す)ねてるんですか?」

 

「そりゃあ、ねえ。なんでこんなチェーン店なんかで……」

 

「ふーん。じゃあ、入りますね。適当に決めましたけど。あなたは食べないんですか?」

 

「お腹空いてないんですよ」

 

「だったら席を取っておいてくれればいいのに。あなたが童貞な理由が垣間見えますね」

 

「……なんか、だんだん馴れ馴れしいっていうか、ふてぶてしくなってません?」

 

「あなたにだけは言われたくないですね。トウシロさん」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「なんで急に黙るんですか」

 

「いいから早く食べましょう」

 

「そんなに私の部屋に入りたいんですか」

 

「いいえ。部屋じゃなくてもいいですよ」

 

「私はどこでもイヤです」

 

「ていうか、いいから早く食べてください」

 

「なぜそんなに急かすんです?最後の晩餐なんですよ」

 

「最後の晩餐がマックって。絶対に死んでから後悔しますよ」

 

「フレッシュネスバーガーの方が良かったかも知れませんね。ていうか、私ってマック好きじゃないんですよね」

 

「……じゃあ、なぜここに足を運んだんですか?」

 

「確かめるためです」

 

「どういうことですか?」

 

「空腹は最高のスパイスって言葉は知ってますよね。あの言葉って人間のバグを端的に表してると思うんですよ。お腹が空いてるって理由で食べ物が美味しくなる」

 

「ああ、なんとなく言いたいことが分かりました」

 

「これが最期の食事だと思ったら、何か変わるかなって思ったんです。変われば、私はこれから死ぬってことをより実感出来ますからね」

 

「ハンバーガーの味はどうなんですか?」

 

「よく分かりません。普段より美味しい気もしますし、変わらない気もします。ひょっとしたら、私は味の変化を認めたくないのかも知れません。自分でも、どうしてそんなことを思うのかは分かりませんけど」

 

「僕にはなんとなく、あなたの気持ちが分かりますよ」

 

「気持ち悪いこと言わないでください」

 

「まあまあ、そう言わずに。僕の話を聞いてくださいよ」

 

「……勝手にどうぞ」

 

「気持ち一つで何もかも変わるってことを認めたくない。そういうことじゃないですか?」

 

「……」

 

「これから自殺するって人間としては、そういうのって知りたくないですよね。気持ち一つで、昨日まで輝くかもとか思うと。死のうとしていた意志まで揺らいじゃいますもんね」

 

「私が死ぬのは決定事項です。今さら変わりません」

 

「いいえ。だったら喜んであなたは最後の晩餐を楽しめると思いますよ。たかが百円のハンバーガーで自分の意志が消える。それが怖いんじゃないですか?」

 

「これはビッグマックなんで、百円じゃありません」

 

「ここぞってところでボケないでください」

 

「むぅ」

 

「ついでに、僕に抱かれてもいいと思っている自分がいる。そうですね?」

 

「いえ。それだけは死んでも変えるつもりはありません。人間のバグっていうのは、なかなか人間に都合良く出来てるみたいですね。でも、世の中には変わらないこともあります。私の気持ちは動きません」

 

「あなた、さては凄い頑固ですね」

 

「そうです。石のように硬い意志を持ってるんです」

 

「あと、ギャグセンスないですよね」

 

「……別に、あなたを笑わせたいわけじゃないんで。ていうか、さっきから変な会話をさせないでください」

 

「変な会話?」

 

「ええ。さっきから妙に視線を感じるんです」

 

「これから死ぬのに、赤の他人の視線が気になるんですか?」

 

「う、うるさいです。とりあえずさっさとここを出ます」

 

「最期の食事なのに、そんな食べ方しなくても」

 

「……」

 

「急にがっついたと思ったら、今度は食べるのをやめて……ブレブレですよ」

 

「ちょっと黙ってください」

 

「結局、だいぶ時間をかけて食べましたね」

 

「最期の食事ですから。当然でしょう。なにか文句でも?」

 

「いえいえ。そんなことよりも、これからのことについて話しましょう」

 

「あなたと話すことはありません。ていうか、いつまで付いて来る気ですか?」

 

「僕の善意を無下にする気ですか?」

 

「善意?」

 

「あなたが死ぬ前に、僕がベッドの上で天国へ導いてあげようとしてるのに」

 

「私が地獄へ送ってあげてもいいんですけどね」

 

「あははは。それは無理ですよ」

 

「確かに。そんな気がします。……ていうか、あなたって凄い変わってますよね」

 

「僕の求愛行動がですか?」

 

「ちょっとその話題から離れましょうか」

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「何が一体変わってるんですか?」

 

「全部が全部変ですけど、普通の人って自殺する人に対してその理由を聞きますよね?」

 

「なんですか。ひょっとして、自殺する理由を聞いて欲しいんですか?」

 

「ち、違います。変な勘違いしないでください」

 

「僕に抱かれたくない理由なら、お聞きしますけど」

 

「あくまでその話題にもっていこうとしますね」

 

「だって、あなたの自殺理由を聞いても、あなたを抱けるわけじゃないですよね」

 

「しつこいですっ!」

 

「真面目な話すると、死ぬ理由って聞いても面白くないじゃないですか」

 

「面白いって……」

 

「大体予想がつきますしね。興味が湧かないんです」

 

「随分と簡単に言いますね」

 

「ええ。本気でそう思ってますから。僕は、死ぬ理由よりも、どちらかというと生きる理由の方に興味があります」

 

「生きる理由?」

 

「死ぬ理由に比べて、生きる理由って曖昧だと思うんですよね。そして死ぬ理由よりも、ずっと色んなものがあると思います。どうせ聞くなら、そっちの方がいいでしょう」

 

「生きる理由……そんなの、なんとなくですよ。死なないし、なんか生きてるから生きてる。そんな感じで、生きてることに答えなんてないですよ」

 

「それがいいんじゃないですか。一生かけても見つからない理由。いや、死んでもなお分からない理由。そういうのって素敵じゃないですか?」

 

「……遠回しに私の自殺を止めようとしてるんですか?」

 

「いえ、全然。あくまで僕は、あなたの体が目的なだけです」

 

「隙があったらその話題にもっていきますね!世の中には死ぬよりつらいことってあると思うんです」

 

「そういうことも確かにあるかも知れませんね。でも、世の中には……」

 

「私よりもつらい思いをして、でも頑張っている人がいる。そういう、ありきたりなことを言うつもりですか」

 

「おおっ!凄いですね。これが噂のコールドリーディングですか」

 

※コールドリーディング

外観を観察したり何気ない会話を交わしたりするだけで相手のことを言い当て、相手に「わたしはあなたよりもあなたのことをよく知っている」と信じさせる話術である。「コールド」とは「事前の準備なしで」、「リーディング」とは「相手の心を読みとる」という意味である。(wikipediaより)

 

「自殺志願者に言う言葉なんて、限られてますから誰でも分かります」

 

「それもそうですね」

 

「そういう、不幸を相対的に見るのっておかしいですよね。私と私以外の人間の不幸に、一体どんな関係があるっていうんですか」

 

「ごもっともです」

 

「またあっさりと認めるんですね」

 

「ええ。言ってるでしょう?僕はあなたの自殺を止める気なんてないって。ただ肉体関係を一度だけ結んだら、それで十分ですから」

 

「もう何も言いません」

 

「え?ということは、いいんですか?」

 

「そういうことじゃありませんからっ!」

 

「怖いなあ。だんだん凶暴になってません?」

 

「あなたのせいでしょう!?」

 

(続く)自殺するって言うなら、その前に僕に抱かれませんか? 2/3

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