仏壇の影に隠された過去
これは、私が子供の頃に住んでいた『家』の話。
祖父は転勤族だったが、やっと落ち着けるということで家を建てた。
そこは風光明媚で有名な場所の近くにあり、目と鼻の先が湖畔。※風光明媚(ふうこうめいび)=山や川など、自然の景色が清らかで美しく、すばらしく眺めのよいこと。
その家を父が受け継ぎ、祖父母、両親、弟と住んでいた。
祖父母が亡くなった後、両親が仕事で忙しく、弟と二人きりで過ごすことがほとんどだった。
家は昔の家にありがちな和室の続き部屋で、手前の部屋にはテレビがあり、奥の部屋は仏間で、そこには大きな仏壇があった。
一人の時でも二人の時でも、テレビを見たり、ゴロゴロしたりはいいが、夜9時を回ると、なぜか向こうの仏間が怖かった。
各自の部屋は離れたところにあったので、見たいテレビ番組を見終われば、それぞれが自分の部屋に戻る。
だが、夜9時を回ってから喉が渇いたからと何かを飲もうとすると、その奥の仏間の前の廊下を通らないと台所へは行けない。
襖はきちんと閉めてあるし、自分でもわからないが、とにかく暗くなってから仏間の方へ行くのが嫌で仕方なかった。
でも両親に話すとか、そんなことは一度も考えたことはなかった。
仕事が忙しいのも理解していたし、笑われるとか怒られると思っていたから。
だから、ずっと誰にも言わなかった。
成人して実家を離れ、仕事で縁が合って結婚した。
そして、何年か振りに里帰りした。
昔と変わらない家具の配置で、懐かしい部屋だった。
だが、昔と比べて部屋全体がすごく明るく感じた。
昼間だったので日の光で十分に眩しく、明かりもつける必要がない。
以前と全く変わらないのに、部屋中が妙に明るい。
なんとはなしに、「部屋が明るくて全然違う部屋みたい」と母に言うと、「あんた、わかるの?」と驚いていた。
そして、「御祓いしたの」という返事をされた。
色んなツテもあり、その地域で名高い拝み屋さんに視てもらったところ、うちの仏壇の中にはうちの家系の人はいなかった。
その代わりに、“仏壇のずっとずっと下の方の土砂に、400年くらい前の旅の母子が盗賊に襲われて無念にも亡くなっていた”そう。
偶然にも、祖父が建てた家の仏壇がその上にあった。
恨み辛みが仏壇の持ち主やその家族に向けられていたそうで、何も気がつかず暮らしていた私は、そこで初めて納得がいった。
他にも、祖父が酒の席で口説いた姐さんがそこに居座ったりしているそうで、とにかく我が家のご先祖というか家族は、軒並み仏壇から追い出されているとか。
何がなんやらわからないが、“たまたま遺体のずっとずっと上の方に仏壇を置いたせいで、我が家は呪われていた”とか。
両親の仕事上のトラブルや、ご近所のトラブルなど、なんやかんやあったのも、きっかけはそのせいだとか。
その後しばらくは落ち着いていたが、結局、両親はその家を手放した。
母は「あの家にはおじいさん(私の祖父)がずっといるの」と、今でも時折話す。
建てた家だから、すごく執着しているという。
そして、その家を購入して越してきた奥さんが、「ここにおじいさんがいる、気味悪い」とボヤいていると聞いた。
(終)