自殺するって言うなら、その前に僕に抱かれませんか? 3/3

屋上

前回までの話はこちら

「原因は分かりません。でも、生きてる時に出来ないと思ったことは、どうも実行出来ないみたいなんです」

 

「変なの」

 

「あと、眠ったりとかも出来ないんですよね。まあでも、こんなことは本当に些細なことなんです。一番衝撃的だったのは、自分以外の幽霊に会わなかったことです」

 

「あなたは幽霊を見たことがないって言いますけど、幽霊の見た目とか、どんな風か分からなくないですか?」

 

「ええ。ですから、ある時からずっと叫んでみたんですよ。『誰か死んだ人はいませんか』って」

 

「それで、反応した人はいなかったってわけですね」

 

「ええ。心霊スポットとか樹海とか、自殺現場にも頻繁に通ったんですよ」

 

「それでも誰にも会わなかったんですね」

 

「はい。そこで初めて気づいたんですよ。幽霊になっても幽霊は見えないって。それに気づいた時、死のうと思った時と同じぐらい死にたくなったんです」

 

「おしゃべり好きな人は自殺しない方がいいってことですか」

 

「……あれ、まだ言ってませんでしたっけ?」

 

「ん?」

 

「僕、生前は人と話すのがイヤでイヤで仕方なかったんです」

 

「……」

 

「目は口ほどに物を言うって言葉の意味が分かりました」

 

「バレました?」

 

「嘘だろ、っていうのが一瞬で伝わってきましたよ」

 

「私は以心伝心の意味が分かりました」

 

「ほほう」

 

「あと、目は口ほどに物を言うって言葉の意味も。変な勘違いしないでくださいね」

 

「照れなくてもいいのに」

 

「はいはい」

 

「まあ、あなたがそう思うのも無理はありません。でも、本当の話なんですよ。友達も全然いませんでしたし、まして異性の知り合いなんて……」

 

「そのわりには、私と話す時は凄い流暢でしたよね?」

 

※流暢(りゅうちょう)

言葉が滑らかに出てよどみないこと。また、そのさま。

 

「死んでからずっと、色んな人に話しかけてたんですよ。僕は」

 

「人と話すのは嫌いだって、さっき言ってましたよね?」

 

「ええ。ですけど、何年経ってもやることがないんですよ?知ってる人とすれ違っても、もちろん気づいてもらえない。僕のことを見てくれたのは、たぶんカメラとかだけなんじゃないですか」

 

「……」

 

「死んでから初めて思ったんです。誰かに気づいて欲しい。誰かとお話したいって。死んでからは色んな人に話しかけましたよ。公園のベンチでぼーっとしてるおじいさんとか、砂場で遊んでる小さなお子さんとか。明らかに怖そうな集団に飛び込んだりもしました。もちろん誰も気づいてくれませんけどね」

 

「返ってつらくなりません、それ?」

 

「ええ。でも時々、会話が噛み合ったりすると、凄く嬉しいんですよ。声をかけて、偶然こちらを見てくれたりとかもね」

 

「切ないですね。じゃあ、私に話しかけたのも……」

 

「いえ。それは少し違います。もうここ半年ぐらいは、そういうのもやめたんです」

 

「じゃあ、どうして私に?」

 

「飛び降りようとしてたからです」

 

「……」

 

「一週間前からずっと、あなたの背中に声をかけ続けてたんです。でも、どんなに呼びかけても、あなたは泣き叫んで僕の声をかき消すんですよね」

 

「飛び降りれなくて、その度に泣いてたのを見てたんですね」

 

「はい。ばっちり」

 

「やっぱりあなた、ムカつきますね。……なんか納得しました」

 

「納得してくれるんですか?」

 

「普通にコミュニケーション出来る人なら、あんな止め方はしないでしょうから」

 

「確かに。本当はもっとまともなことを言うつもりだったんですよ。けど、今日になって僕の声はあなたに届きました。不謹慎ですけど、嬉しすぎて舞い上がっちゃったんですよ。『僕の声が届いた!』って、はしゃぎそうになりました」

 

「のっけから言いたい放題でしたもんね」

 

「はい。あんなに自分が口達者だとは夢にも思いませんでした」

 

「ありがちな説教をされてたら、私はあそこから飛んでました」

 

「じゃあ、僕の説得は正解だったわけですね」

 

「どこが説得だったんですか。自殺すること自体は止めなかったじゃないですか」

 

「まあ、結果オーライじゃないですか」

 

「なに言ってるんですか?」

 

「え?」

 

「私が辿る結末は変わりません」

 

「普通ならここで、僕の話を聞いて考え方を変えるって展開じゃないんですか」

 

「あなたのおかげで救われたなんて、そんな展開はごめんです。ですが、延長しようと思います」

 

「延長?」

 

「今日は無駄にお話して疲れました。ですので、明日の午前十一時に、またマンションの前に来てください」

 

「え?あなたはどうするんですか?」

 

「今日は寝ます」

 

「は、はあ」

 

「言っておきますけど、跡をつけたりしないでくださいね」

 

「……読まれてましたか」

 

「明日また会いましょう。おやすみなさい」

 

「……おやすみなさい」

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<翌朝>

 

「いやあ、長いんですよねえ」

 

「会ってそうそう何ですか」

 

「死んでからの夜は長いって話です」

 

「私は夢を見てましたよ」

 

「いいなあ」

 

「夢の内容は教えてあげませんから」

 

「聞きませんよ。それより、これから何をするんですか?なんだか大きなバッグも持ってますし」

 

「あなたが使っていた部屋に行きます」

 

「は?ど、どういうことですか?」

 

「不動産屋に問い合わせたら、すぐ分かりました。あなたが使っていた部屋のこと。それから、現在は引越し時期ってことで、部屋も偶然空いてるそうです」

 

「いえ、そういうことじゃなくて」

 

「いいから付いて来てください」

 

「……」

 

「……手、引っ張ろうとしても触れないんでしたね」

 

「スケスケですからね」

 

「でも付いて来てください」

 

「分かりました」

 

<男が住んでいた部屋>

 

「うわあ、クリーニングされたんですね。凄い綺麗になってます」

 

「私の部屋より綺麗ですね」

 

「でも、何もありませんね」

 

「私たちしかありませんね」

 

「……」

 

「何か感想は?」

 

「いえ。正直この部屋を見ても、なんの実感も湧きません」

 

「ここで昔暮らしてたんだとか、そういうのもありませんか?」

 

「ひょっとして、僕を気遣ってここに連れて来たんですか?だとしたら、申し訳ないんですけど……」

 

「私は気遣いが苦手な人間です」

 

「知ってますよ」

 

「ここに来たのは、見てみたかったからです」

 

「どこへ行くんですか?」

 

「……おそらく、ここだけはほとんど変わってないんじゃないですか?」

 

「なるほど」

 

「ベランダ、どうですか?」

 

「そうですね。そんなに変化はないですね。あっ、でも、柵は取り替えられたのかも。でも一番変わってないのは、ここからの景色かも知れませんね」

 

「これが、あなたが見ていた景色なんですね」

 

「ええ。どこにでもある、ありふれた光景です」

 

「けど、私が見たいと思った景色です」

 

「……」

 

「本当に、なんの変哲もない景色ですね」

 

「がっかりしましたか?」

 

「よく分かんないです。でも、ここに来てもピンと来ませんね」

 

「何がですか?」

 

「あなたって人が死んだ場所って」

 

「そんなものですよ」

 

「お供え物みたいなものも、このバッグに入れておいたんですよ」

 

「嬉しいですね。でも、ここにものを置いていくと迷惑になります」

 

「そうなんですよね。だから一緒に何か飲みません?」

 

「どうやって?」

 

「色々持って来たんですよ。ちっちゃい缶ジュース」

 

「うわあ、凄い量ですね」

 

「アルコールとかの方が良かったですか?」

 

「いえ。酒の類はほとんど飲まないんで」

 

「私もです。飲むとすぐ気持ち悪くなっちゃって。現実逃避のためにブラックニッカ飲んだら気持ち悪すぎて。また死にたくなりました」

 

「よく死にたくなる人ですね」

 

「死にたくなる人は沢山いると思いますよ。きっとね」

 

「死にたくなる人は、ね」

 

「……はい、私が缶を持っててあげますから、口つけてみてください」

 

「じゃあ、このジュースで」

 

「はい、どうぞ」

 

「他の人がこの光景を見たら、なんて思うでしょうね」

 

「ひとりぐらい笑ってくれるんじゃないですか?」

 

「それは笑われてるんですよ」

 

「うっさいですよ。さっさと飲んでください」

 

「えっと……では……」

 

「私も頂きます」

 

「……」

 

「ふふっ……変なの。おちょぼ口になってるし」

 

「いや、こうするしかないでしょう。傍から見たら、変なのはあなたですよ」

 

「昨日の夜ご飯の時も、こんな感じだったんですかね」

 

「おそらく」

 

「……ジュース、どうでした?」

 

「きっと美味しかったです」

 

「……」

 

「どうしました?」

 

「本当に、私ったら何やってるんでしょうね」

 

「僕とジュースを飲んでるんですよ。ごくごくと」

 

「ごくごくって、なんか生きてるって感じがしますね」

 

「……そうですね」

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

「次はどこへ?」

 

「決まってます。屋上です」

 

「屋上に行って、何をするんですか?」

 

「いいから、付いて来てください」

 

「……わかりましたよ」

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<屋上>

 

「それで、一体ここへ何しに来たんですか?」

 

「分かりませんか?」

 

「思い当たることがありすぎて。ちょっと」

 

「そうですか」

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

「塀の上に登ったぐらいで、そんな声を出さないでください。あなたは言いましたよね?自分に私を止める資格は無いって」

 

「言いましたけど、それは……」

 

「嘘をつくのはよくありませんよ」

 

「自分で自分を殺すよりはマシだと思いますよ」

 

「……。何か勘違いしてません?もう一度言います。嘘をつくのはよくありませんよ」

 

「嘘なんてついてませんよ、僕は。あなたに話したことは、全部事実です」

 

「いいえ。あなたは嘘をついてます」

 

「何を?」

 

「本気で分かりませんか?それとも、惚(とぼ)けてるんですか?」

 

「だから、惚けてなんて……」

 

「パンツ」

 

「……はい?」

 

「だから、パンツです。昨日、管理人さんがここからいなくなった段階で、気づけたはずなんですよね。塀の下には、人が身を潜められるぐらいの出っ張りがある。これで気づくべきでした。マンションの下から覗いても、出っ張りが邪魔でスカートの中なんて見えるわけがないんですよ」

 

「……」

 

「どうですか?間違ってないでしょう?」

 

「いえ、まあ、おっしゃる通りなんですけど」

 

「パンツの色は適当に言えば当たりますしね。外れても問題ないですし」

 

「……えっと、その確認のためにここに来たんですか?」

 

「とても重要なことでしょう?」

 

「まあ、重要じゃないとは言いませんけど」

 

「お嫁に行けるか行けないかの問題でしたからね。私にとっては」

 

「お嫁?」

 

「……一つ、私の憧れてたことの話を聞いてくれません?」

 

「憧れてたこと、ですか。どうぞ」

 

「私、大学生になるぐらいまで、ドラマチックに死にたいって思ってたんです」

 

「変わってますね」

 

「はい。自分でもそう思います。世界の終わりに好きな人と寄り添って死ぬとか、自分の命を使って誰かを助けて死ぬとか。なんか、そういうものに憧れていたんです。生きて惨めな姿を晒すなら、自殺した方がマシ。結構本気でそう思ってたんです。いえ、昨日までずっと……」

 

「命を賭けるってことが、フィクションの世界だと美しいものとして描かれることがありますよね?おそらくそういう影響なんじゃないですか?」

 

「ああ、自分の命よりも大切なもの……みたいな?」

 

「そうです」

 

「そうですね。きっと私はそういうのに憧れてたんですね」

 

「僕も死ぬ前は、そういうのに憧れてましたよ」

 

「今は?」

 

「言わせないでください。フィクションにおける主人公とかは、そういう命を賭ける場面に遭遇したりします。そういうのに、昔は僕も自己投影してたりしてました。でも今は、みっともなくても惨めでも、生きたいって懇願する人物の方に、ついつい共感してしまうんでしょうね」

 

「漫画とかに出てくる、仲間を売って自分だけ助かるみたいな悪役とかですか?」

 

「ああ、そういうのですかね。どうしてなんでしょうね?ああいう人たちが、さも間違ったもののように描かれてしまうのは」

 

「惨めで、みっともないからじゃないですか?」

 

「そういうことをする人より、命を投げ出す人の方が好かれるんですよねえ。ごめんなさい。愚痴っぽくなりましたね」

 

「あなたの本当の性格が垣間見えましたね」

 

「恥ずかしいです」

 

「……でも、あなたの気持ち、今なら分かります。ほんの少しだけ」

 

「嬉しいですね」

 

「昨日夢を見たって言ったじゃないですか、私」

 

「言いましたね」

 

「透明人間になる夢を見たんですよ。夢の中では私、なぜか中学生に戻ってたんですよ。夢の中では、学校の廊下を走っても、誰にも注意されませんでした。バスに乗っても、お金を払う必要がありませんでした」

 

「みんな見てないみたいでした。私のことなんて。最初はね、羨ましいだろって優越感に浸ってたんです。でもだんだん、それが強がりになって。誰かに私の名前を呼んで欲しいって……夢の中で思ったんです」

 

「まさしく、透明人間ですね」

 

「でも、私はいやらしいことは思いつきませんでしたけどね」

 

「僕が、死んでから変なことをしたみたいじゃないですか」

 

「違うんですか?」

 

「否定は出来ませんね」

 

「やっぱりね」

 

「なんだか、あなたが楽しそうに見えます」

 

「気のせいですよ。私の人生は惨めでみっともないものです。それこそ、自殺したくなるぐらいにね」

 

「……。でも、それでも生きてれば、いいことはあるかも知れませんよ」

 

「そう言って、何も起きないまま人生が終わって。なんでもっと早く死ななかったんだろう、って惨めな思いをしそうですね」

 

「そうですね。生きてればいいことがある、なんて無責任な発言です。ですが、断言します。あなたがここから飛んでも、いいことは起こりません。絶対に」

 

「そんなのは、自殺する人は多分みんな知ってます。あなただってそうだったんでしょう?」

 

「……」

 

「そう。自殺なんてしなくても、辿る結末はみんな同じなんですよ。いつか、絶対に人は死ぬ。……そうなんですよね。いつか私たちって絶対に死ぬんですよね」

 

「待ってください。しつこいですけど、ここから飛び降りても……!」

 

「もう遅いです。えいっ」

 

「……」

 

「塀から飛び降りましたよ」

 

「……内側にね」

 

「私は嘘はついてませんよ。一度も地上へ飛び降りるなんて言ってません」

 

「……その通りです」

 

「そう、結末は決まってます。どうせここで死ななくても、いつかは死ぬ。だったら、みっともなくて惨めな人生を続けてもいいかも知れません。あなたは言いましたね。『死ぬって決めたら、心にゆとりが出来ません?』って」

 

「そんなこと言いましたっけ?」

 

「ええ、はっきりと。みんな最後は死ぬって思ったら、少し生きようと思いました。もう少しだけ、生きて惨めな思いをしようと決めました」

 

「……後悔するかも知れませんよ」

 

「そうしたら、死にます」

 

「また後悔するかも知れませんよ」

 

「だったら、生きて後悔する方を取ります」

 

「あなたは変な人ですね」

 

「あなたに言われたくありません。あなたのせいで、私は生きることになりましたから」

 

「酷い言い草ですね」

 

「ホントですよね」

 

「僕ならいいですけど、他の人とお話する時は、もう少し言葉を考えた方がいいですよ」

 

「そっくりそのままお返しします」

 

「あはは。確かに僕も人のこと言えませんね」

 

「認めたくありませんが、案外私たちって似た者同士なのかも」

 

「……この手は?」

 

「握手です。私はあなたが嫌いです」

 

「あれ?生きてなければ嫌いじゃないみたいなこと、言ってましたよね?」

 

「あなたは例外です」

 

「あらら。死んでから、生まれて初めてフラれるなんて。悲しいですね」

 

「はいはい、分かりました」

 

「……握手、どうすればいいんでしょうか?」

 

「細かいことは気にしないでください。ただ私の手を握ってください」

 

「……はい」

 

「ふふっ……やっぱり変ですね」

 

「あはは。手が微妙に透けてますね」

 

「勘違いはしないでくださいね。私は、あなたのことが嫌いですから」

 

「しつこいですね、あなたも」

 

「あなたには負けます」

 

「どうでしょうね」

 

「……嫌いなあなたのせいで、私は生きようと思っちゃいました」

 

「あなたらしいセリフですね」

 

「でも、ありがとうございます。あなたに会えて、本当に良かったです」

 

「……。やだなあ、勘弁してくださいよ」

 

「?」

 

「もっと生きたいって思っちゃうじゃないですか」

 

「じゃあいつか、あなたが死にたくなるぐらい幸せな姿を見せてあげますよ」

 

「いつ頃になりますかね」

 

「知りません。生きてるうちに、とだけ言っておきます」

 

「楽しみにしておきます」

 

~fin~

 

あとがき

この物語はここで終わりです。

 

これ以上は蛇足になると思いますから。

 

でも一つだけ言っておきます。

 

私は今も生きています。

 

(終)

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