俺のじいちゃんと50円玉

俺のじいちゃんの地方では、

死んだ時にお棺に小銭を入れて

一緒に焼く風習があるんだ。

 

それで出棺の時に小銭を貰って、

お守りとして身に着けるのね。

 

俺の親父も、

亡きじいちゃんと焼いた小銭は

今でも持ってる。

 

じいちゃんが死んで二週間くらいしてから、

俺は海外に長期滞在が決まってた。

 

「じいちゃんも連れて行って

やるからな」

 

みたいな気持ちもあって、

 

焼いた50円玉に紐付けて、

財布にくくってたのね。

 

シドニーに住んでたんだけど、

楽しくて刺激の多い毎日だったよ。

 

友達も彼女も出来た。

 

みんな俺の50円玉見てた。

 

話をすると気味悪がったり

興味深々だったり、

 

まあ話のネタとしては、

まあまあだったかな。

 

で、向こうで知り合った友達と

ある日、買い物に行ったのさ。

 

結構大きな買い物する

予定だったので、

 

財布には1000オーストラリアドルくらい

入れてたのよ。

 

ところがそいつを電車で

落っことしたらしく、

 

目的地に着いた時は、

一文無しだったわけ。

 

キャッシュカードや

身分証明書も入ってたし。

 

明日からどうすればいいかも

わかんなくなって、

 

激鬱のまま電車賃借りて、

一人でショボーンと帰ったわけよ。

 

当面の生命線として、

友達から200ドルくらい借りた。

 

けどそれっぽっちじゃ

どうにもならんから、

 

やけになってバーで深酒して、

ゲロりながら深夜帰宅。

 

「あー、鬱だ」って思ったよ。

 

金もそうだけど、じいちゃんとの

最後の繋がりが消えたことが、

 

一層気分を悪くしたね。

 

もう寝ようかと思って

電気を消したら、

 

留守電にメッセージが入ってるランプが

点滅してたのね。

 

メッセージの主は

警察だったんだけど、

 

「お前の財布が届いてるから

明日取りに来い」

 

って入ってたのよ。

 

狂喜乱舞したね。

地獄に仏だったよ。

 

とりあえず出頭して、

中身の改めも終わって、

 

いざ財布を返してもらう時になって

気付いたんだけどさ。

 

50円ねーのよ。

紐ごと無くなってる。

 

1000ドルも免許証もカードも

全部揃ってるのに、

 

50円だけ無いの。

 

警察に言っても、

「んなもん無かった」

って言われるだけ。

 

でも帰り際に警察の人が、

 

「届けてくれた人だけどな、

お前の免許の写真見て、

 

同じアジア人同士で

放っとけなかったんだろうな。

 

アジア系の爺さんが

届けてくれたよ。

 

言葉もわかんなかったけど、

すぐに返してやれみたいな事

しつこく言ってたぞ。

 

身元を聞いても、

ノーイングリッシュとか言って

教えてくれなかったがな」

 

と、届出当時の状況を

教えてくれた。

 

後日その事を友達に話したら、

 

「お前はシドニー1の

ラッキーガイだ。

 

そんなジェントルマンは、

俺もお前もこの先二度と

お目にかからんだろうよ」

 

って、感心しながら

しきりに言ってた。

 

違う。

 

アレは、じいちゃんだ。

 

「お前は早速、

俺に仕事させやがって。

 

もう今度は助けんからな!

しっかりしろ!」

 

とでも言いたくて、きっと

50円取って帰ったんだと思う。

 

身代わりになってくれたのかな?

 

今頃シドニーでノーブラ娘に

鼻の下伸ばしてんだろうなぁ。

 

また行くからな!

 

(終)

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