父が亡くなってから半年後の夜に
父は私が小学3年生の時に亡くなった。
これは、その半年後くらいの話。
その日は私にしては珍しく、夜の3時頃まで起きていた。
そろそろ寝ようかなと思って自分の部屋がある2階に行くと、母の部屋のドアが開けっ放しに。
夜は冷え込む時期に入っていたし、風邪をひくと困るだろうから、ドアを閉めてあげようとした、その時だった。
ベッドの脇に、寝ている母を覗き込むように父が立っているのが見えた。
幽霊的なものを見るのは初めてではなかったので、さほど驚かなかった。
むしろ、のんきに「母に会いに来たのかな?」と思って、黙って二人を見守った。
父はベッドに手をついて、母にゆっくりと顔を近づけていく。
私はすぐに、父が母にキスをしようとしているとわかり、自分の顔がほてるのがわかった。
でも、キスは実行されなかった。
あともう少しというところで母が寝返りをうったので、父の唇は枕と接触することに。
そのまま微動だにもしない父の姿がおかしくて、私は耐えきれずに吹き出すと、こちらに振り向く父。
ちょっと泣きそうになっていたあの顔は、今でもよく覚えている。
そのまま言葉もなしに父と見つめ合っていると、母がまた寝返りをうって仰向け状態になった。
父は待ってましたと言わんばかりの笑顔で母に向き直り、唇にキスを落とした。
そして床で布団を敷いて寝ていた兄の額にキスをし、最後に部屋の前で突っ立っている私の額にもキスをしていった。
(終)