小窓の向こうを横切る白いもの

台所

 

これは、祖母が若い頃に体験した話です。

 

それが起こったのは祖母が祖父の家に嫁入りした頃で、その家の台所には上の方に小さな窓が付いていました。

 

仕事からもうすぐ帰ってくる祖父のために祖母がいつものように料理を作っていると、その小窓の向こうを何か“白いもの”がさっと横切るのが見えたそうです。

 

フクロウか?と窓を見やり、料理しているとまた白いものが窓を横切ります。

 

「何だろう?」

 

フクロウではないと思った祖母は、今度はしっかり見てやろうと窓をじっと見ていました。

 

そして再び窓を横切っていったもの…。

 

それは、苦しそうな表情を浮かべた『女性の横顔』でした。

 

まともにお化けを見てしまった祖母は悲鳴をあげて寝室の布団にくるまり、祖父が帰ってくるのを震えながら待っていたそうです。

 

祖父が帰ってくると、祖母は起こったことを泣きながら訴えました。

 

すると祖父は何も言わずに件の窓に板を打ち付けて塞いだ後、祖母を座らせ、こんなことを話し始めたそうです。

 

「俺が子供の頃に、近所の家で女が首吊り自殺してね。そいつの首が村中を飛び回ってるって噂があったんだ。まさかまだいたとはな」

 

とんでもないところに嫁にきてしまった…。

 

祖母はそう思ったそうですが、新婚そうそうに実家に戻るわけにもいかず、しばらくは家中の窓にカーテンや布を掛けて過ごしたそうです。

 

ちなみに、祖母は今もその家に住んでいます。

 

そして件の小窓は今では戸棚になっており、私は実家の台所に立つ時によくこの話を思い出します。

 

(終)

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