私を救ってくれた亡き彼
今から12年前、
まだ高校生の頃の話から始まります。
当時、私には彼氏がいました。
クールで口数が少ないけど、
かっこいい彼のことが好きになって、
私からアタックして
付き合うことになったんです。
付き合うことになったのはいいけど、
彼は私が憧れてたような愛情表現が
なかったんです。
ぶっきらぼうだし、いつまで経っても
名字で呼び捨てだし・・・
ただ、私と二人で喋ってる時は、
他の人には見せないようなとても優しい目で、
真っ直ぐ私を見てくれてました。
それでも私は不安になってました。
もしかしたら女としてではなく、
自分の姉妹を見るような感覚なのかなって。
思いきって彼に気持ちを確かめようと
思ってた矢先、
彼は車に轢かれて、突然、
亡くなってしまいました。
手を繋いだこともなく、
彼のぬくもりを知らないまま
私の目の前から突然、
去っていきました。
押し潰されそうな悲しさを堪えながら、
彼のお葬式に出席しました。
お葬式が終わり、泣き腫らした目で
会場に背を向けた時に、
彼のお母さんに呼び止められました。
お母さんも泣き腫らした目をしてました。
「これ・・・中身読んじゃったの・・・。
ごめんね。あなた宛の手紙だったの・・・」
そう言って、
封の開いた封筒を渡されました。
ふらふらと家に帰り、
もらった封筒の中身から
紙を取り出しました。
彼の字を見た途端、
その場にへたり込んで、
大声で泣いてしまいました。
その手紙には、
『○○へ
面と向かってでは、
どうしても照れくさくて言えないから
手紙で勘弁してほしい。
○○のこと一番大切に思ってる。
誰よりも幸せでいてほしい人だと思ってる。
□□より』
と書いてありました。
彼は、私の不安な気持ちをちゃんと
察してくれてたんです。
しばらくは、小さい子供の頃に戻ったように
泣き狂いました。
それから5年・・・
私は、小さな会社で
事務の仕事をしてました。
5年の月日が流れてやっと、
好きな人が出来ました。
婚約も、しました。
幸せでした。
でも、その幸せは、
長く続きませんでした。
「この人となら」とまで思ってた人が
二股をかけていて、
婚約を一方的に破棄されて
しまったんです。
不幸なことは続くもので、
婚約が白紙になったと同時期に
両親を失いました。
バブルの崩壊で多額の借金があり、
それを私に隠したまま自殺してしまいました。
私一人残して。
借金は祖父が全額払ってくれました。
「なんでこうなる前に親に一言でも
相談してくれなかったんだ」
と頭を抱えてました。
私は、重なる不幸に
押し潰されそうになってました。
外をふらふら彷徨い、
彼と両親のところへ行こうと、
死に場所を探しました。
完全に自分を失っていて、
心のコントロールが効かなくなっていました。
冷静に考えれば後追い自殺なんて
いけないことだとわかるのに、
それも失ってました。
生きる気力を失った私は、
人気のない通りの雑居ビルを見つけ、
誰にも見つからないように、
屋上に侵入しました。
ビル内にまだ仕事をしてる人が
居たからなのか、
鍵はかかってませんでした。
屋上に着くと手すりを乗り越えて、
靴を脱ぎました。
目を瞑って、体の力を抜きました。
その時、誰かが凄い力で私の腕を
引っ張りました。
腕が折れそうなぐらいに。
見つかってしまったと思い、
小声で「離して」と引っ張られた方を向くと、
そこに居たのは、あの彼でした。
ぶっきらぼうだったあの彼が、
あの優しい目で真っ直ぐ私を見てました。
とても暖かい、安心感のある目。
あの時のままの姿、年齢。
彼は口元にかすかな笑みを浮かべて
首を横に振りました。
そして、スッと消えました。
ほんの1秒にも満たない
出来事だったと思います。
でも私には、
スローモーションみたいに
ゆっくりに感じました。
暗がりが見せた、
見間違いだったのかもしれません。
錯乱した精神が、
私に幻を見せたのかもしれません。
私は我に返り、
バカなことをせずに済みました。
それから7年経った現在。
私は結婚して、
小さい子供もいます。
幸せです。
(終)
泣けた。