20歳くらいの気の弱そうな謎の青年
これは、今から4年ほど前の梅雨前頃に体験した話です。
夜23時頃、東大阪まで彼女を車で送り、私は奈良の自宅へ帰ろうとしていました。
ですが、阪奈道路の上り道に入ってすぐに少し眠気が出てきた為、車内の空気を入れ換えようと指が出る程度に少し窓を開けました。
平日だったので周りには他の車が走っておらず、とても静かでした。
「どうしたん?」
私は3ヶ月ほど前ににネズミ取り(スピード違反)にやられたばかりで、それ以来はおとなしく走っていたのですが、この時間で周りに誰もいないし、その道はネズミ取りの場所が決まっていたこともあり、アクセルを踏み込んで夜景の見える場所まで飛ばそうと考えました。
何度かカーブを切った後、直線になったのでスピードを緩めて惰力で走っていると、ピチピチピチという音が聞こえてきました。
すぐタイヤに石が挟まった音だと気づき、広くなった場所で車を路肩に寄せ、後輪の辺りをチェックしていました。
すると、突然背後から馴れ馴れしく「どうしたん?」と声をかけられました。
一瞬心臓が飛び出るほどビックリしたのですが、すぐ気を取り直して相手の顔を見ると、20歳くらいの気の弱そうな青年でした。
別に大したことではないので内心放って置いてくれと思いましたが、邪険にする理由もないので「タイヤに石が挟まったみたい」と答えました。
すぐさま「これちゃう?」と言って彼が指さしたので、そこを見ると結構深く石が突き刺さっていました。
手や木の枝では取れそうになかったので、車に積んでいる工具を出そうとしましたが、彼はすかさず「これ使い」とドライバーを差し出してくれました。
私は石ころを取ってドライバーを返そうと立ち上がると、彼はいつの間にか車から離れ、道の上の方に向かって歩いていました。
「ありがとう!これ!」と結構大きい声で呼んだのですが、彼は気づかずに上の方に停めてある白い車に向かって歩いていき、ドアを開けて乗り込んでしまいました。
車までは60メートルくらいの距離でしたが、私は自分の車に乗り、彼の車の側までゆっくり寄せようとして唖然となりました。
ついさっき開けるところを確かに見たのに、車にはドアがないのです。
そればかりか、停めてある場所は草むらの中で、タイヤもなく窓ガラスもなく捨てられている車だったのです。
もちろん人の気配はありません。
慌てて手に握っているドライバーを見ると、手に赤錆が付くようなサビだらけのドライバーでした。
私は急に怖くなり、助手席の窓を開けて草むらへドライバーを投げ捨てて車を加速させました。
すると突然耳元で、「乗せてってや!」という声が聞こえました。
無我夢中で家までたどり着いたのですが、途中の信号が青だったのか赤だったのか、どの道を通ったのかも覚えていません。
その後、身の回りにはおかしなこともなく平穏に過ごしています。
不思議な出来事でした。
(終)