亡くなった祖母が作ってくれた手袋
これは、編み物が好きだった祖母にまつわる不思議な話。
それは趣味の領域を出ないものだったけれど、私は祖母の作ってくれた服が大好きだった。
祖母が亡くなる前の年、私に『手袋』をくれた。
それはリボン柄が編み込まれたとても可愛らしい手袋で、私は何年もその手袋を使っていた。
そうして何年も使っていると、手袋はボロボロになった。
祖母が私を守ってくれた
加えて成長期なこともあって、「この手袋は今年で最後かなぁ」なんて思っていた。
新しい手袋を買いに出掛けてみるけれど、どれも祖母の物ほどしっくりこない。
そんなある日、その日も手袋をして私は友達と高台にある公園へ遊びに行った。
お城の跡に作られた公園なので、石垣とお堀が未だに残っている。
皆でボール遊びをしていると、ボールがお堀の方へ飛んでいってしまった。
慌てて追いかける私。
良かった・・・、ギリギリのところでお堀に落ちていなくて手すりに引っかかっている。
そんなことを思いながら鉄棒の横を通ると、突然グイっと右腕が引っ張られた。
「えっ?」
驚いて振り向いた私は、もう一度驚いた。
引っ張られたと思ったのは間違いで、私の手がしっかりと鉄棒を握っていた。
「えっ、えっ??」
私は鉄棒を握ろうなんて思っていない。
むしろ握った手を離したいのに、指一本動かせない。
自分の手が自分のものではなくなったみたいに。
そして、半泣きになりながら左手で指を引き剥がそうとしたその時だった。
グラっと地面が揺れて、私はその場にへたり込んだ。
今思えば震度4くらいだったと思うけれど、滅多に揺れたことがない地域だっただけに辺りがにわかに騒がしくなった。
いつの間にか右手は鉄棒から離れていた。
しかし、ボールは揺れたせいかお堀の方に落ちていった。
もしあのままボールを拾いに行っていたら、揺れの弾みで私がお堀に落ちていたかもしれない。
「きっと、ばあちゃんが守ってくれたんだよ」
帰ってから両親に話すと、父がそう言ってくれた。
その手袋はもう小さくなって手は入らないけれど、今も私の机の上に飾ってある。
(終)