良いことばかり起きる不思議なタクシー
これは、あるタクシーにまつわる不思議な体験談です。
私はタクシーの運転手をしております。
個人ではなくまとまりの会社ですが、大体の皆様がいつも同じナンバーのタクシーで営業に行きます。
私が入社したてのある日、私のお気に入りのナンバーのタクシーが車検の為ありませんでした。
代わりに出されたのが、会社のガレージの隅にある、今は化石といわれるミッション車仕様のタクシーです。
ですが、ナビは私のお気に入りと同じでほっとしました。
さて、ここからです。
オヤジのタクシー
不思議なことに、その日はお客様が入れ食いでウハウハなのですが、ナビの案内と車の調子がおかしいんです。
悪い意味でなく、良い意味で。
例えば、ディズニーランドへ行くのに渋滞なしでも1時間かかる道が45分で着いたり(自分の知らない道順で案内され従った結果)、急にエンストしたと思ったら子供が飛び出してきたり(いつもの調子なら間違いなく轢いていた)、という具合。
明らかにおかしいので上司に相談したところ、あるところに連れて行かれました。
そこは、この会社に貢献した人の写真が飾られていました。
ありました、白髪の老紳士とあのタクシーが。
そして上司がこんな話をしてくれました。
// ここから上司の話 //
今日、お前が乗ったタクシーはオヤジ(あだ名)が使っていたやつなんだ。
何でも、そのオヤジさんは普通二種を取ってすぐにこの会社に入った人物。
まだナビも普及されていない中、その人の指示通り行くと渋滞なし、もしくは渋滞ありでもすぐに着く道順を作ってくれたとか。
いつもAMラジオと天気予報、地図帳でその日のベストなルートを作る天才。
さらに運転も上手く、名指しで指名がくるほど。
定年になり、その頃からナビが普及し始めたが、当時の社長さんが再雇用枠でまた雇用した。
いくらナビが付いても、その人のルートには敵わないからだ。
そして指名が入るから。
ある年、社長が配置換えされ、別の人物が就いた。
その人は、ナビもあるのにオヤジに頼る社員へのムカツキと、自分に懐かない社員へのムカツキで、オヤジをあっさり解雇。
これで自分に目がいくだろうと思ったが、正反対だった。
徐々に会社は衰退し、それと同時に前社長が戻ってきた。
オヤジが愛用していた地図帳を元にルート作りをし、なんとか以前ほどになった。
社長が菓子折りを持ってオヤジの家に行こうと考えた時、一通の手紙が届いた。
亡くなったのだ、オヤジが。
それから、オヤジが愛用していたタクシーに変化が起きた。
ナビの件しかり、エンストの件しかり、防犯機能を付けていないのに他のタクシーを泥しようとするとクラクションが鳴り響く、といった具合。
『オヤジありがとう』と感謝の意味を込めて、未だにそのタクシーを残してあるんだとか。
// 上司の話ここまで //
あれから数年経っても、そのタクシーはあります。
知人にこの話をすると「釣りだろ(笑)」とよく言われますが、本当に不思議なことが起きるんです。
ただ、もう乗る人がいないので、今はナンバー無しで保管してあります。
(終)