障子に開いた穴を数え始めたら
10歳の頃の話。
当時、僕の部屋は畳と障子の和室で、
布団を敷いて寝る生活だった。
ある晩、
高熱を出して寝込んでいた僕は、
真夜中にふと目が覚めた。
寝込んでいる時って
日中もずっと寝てるから、
変な時間に目が覚めるんだ。
当然、電気も消えているし、
障子も閉め切ってるから、
部屋の中は真っ暗だ。
でも真っ暗な中でも、
目が慣れてくるとある程度は
部屋の様子が見えてくる。
(外の明かりもあって)
そんな状態で、
ぼーっと寝たまま障子の方を見ていた。
すると、
なんだか部屋の様子が変な気がした。
いつも見慣れている自分の部屋なのに、
どこか違和感がある。
ゲシュタルト崩壊とはまた違う、
なんともいえない違和感があった。
※ゲシュタルト崩壊(コトバンク)
本来は全体を認識する能力が低下することを表現する心理学用語。
・・・で、気付いたんだ。
僕の部屋の障子は、
自分で開けてしまった穴が
何箇所かあったはずなのに、
心なしか、
その数が多いような気がした。
おかしいな・・・
こんなに穴って多かったっけ・・・
そう思って、
穴の数を数え始めた。
高熱で寝起きのぼーっとした頭で。
明らかに、
普段認識している穴の数より多かった。
普段が3つだとしたら、
7つぐらいまで増えていた。
さすがにおかしいだろ、ということで、
もう一回数えようとしていたら、
『ぶすっ』
と穴が開く瞬間を見た。
一瞬、凍りついた。
障子の外側は窓ガラスになっていて、
当然ガラスも閉め切ってる。
外から何か(誰か)が穴を開けるなんて、
まず有り得ない。
混乱しながらどうすることも出来ずに
障子を見ていると、
また『ぶすっ』と、
別のところに穴が開いた。
怖くて飛び起きようとしても、
高熱のダルさなのか何なのか、
起き上がることが出来ない。
もう、障子の方を見たくない。
でも背中を向けるのも怖い。
どうしよう・・・と思っていたら、
一気に『ずぼっ』と五箇所の穴が開いた。
まるで、五本指をそのまま
突っ込んだみたいに。
そして、
五箇所の穴がそれぞれ下方に
どんどん広がった。
突っ込んだ五本指を使って、
障子を裂いていくみたいに。
実際に障子に五本指を突っ込んで
下方向に裂くと、
きれいに五本筋は出来ずに、
途中からまとまって破けてしまうのは
イメージ出来ると思うけれど、
その時もまさにそうなった。
まとめて結構な面積が破れた。
もう半泣きで、
でも障子から目を背けられずにいると、
破れて出来た大きな穴から、
真っ黒い長い髪の毛が垂れてきた。
もう、外の窓ガラスが
閉まってるとか閉まってないとか、
そんなことは関係なく、
幽霊がすり抜けて入って来ようと
しているんだと思った。
髪の毛はどんどん垂れてきて、
頭が全部部屋の中に入ってきた。
そこで意識が途絶えた。
次に気がつくと、
もう朝になっていた。
無事に朝が来たことにまずほっとして、
次に夜のことを思い出してゾッとし、
とっさに障子を見た。
障子の穴は無くなっていた。
そこでまたほっとしたが、
また違和感を感じた。
障子の穴が一つ残らず無くなっていた。
自分で開けた普段からあった穴も
全部無くなって、
張り替えた直後のようになっていた。
不思議に思って
障子をまじまじと見てみたが、
張ってしばらく経ったような、
少し色が黄ばんだ感じのまま、
ただ穴だけが消えていた。
部屋の障子を開けて、
またゾッとした。
窓ガラスには手形が二つと
長い髪の毛が10本ほど、
べったりと張り付いていた。
親に言っても信じてもらえず、
障子の穴も「最初から無かった」と言われた。
だけど、絶対に自分で開けた穴は
あったはずだった。
以来、家を建て替えるまで、
寝る時は絶対に障子に背を向けて
寝るようになった。
幸い、その夜以外には
異変とか怪異はなかったが、
今でもどんどん障子の穴が増えていく、
あの光景を思い出すとゾッとする。
(終)