PTAが企画した夏休みの肝試しにて
俺が小学3年生の頃、
夏休みにPTAが企画した
肝試し大会があったんだ。
通っていた学校が会場だったのだが、
結構なマンモス校で、
校舎が4棟もある、
かなりデカイ学校だった。
夜7時くらいに
同じ学年の子達がぞくぞくと、
待合室になった体育館に
集まってきた。
全部で150人くらい居たかな。
「クラスの6人編成の班の中から、
二人のペアを作りなさい」
と、先生に言われて、
俺は女の子と組むことになった。
二つの棟を使うコースで、
ゆっくり歩いて20分くらいの
コースだと説明された。
ウォークラリーみたいな感じで、
『チェックポイントのスタンプを
全部集めていく』
という内容だったと思う。
俺がいた1組からスタートになって、
遅くもなく早くもなくのような順番で、
俺たちペアは出発した。
体育館から続く
渡り廊下を歩いて行くと、
コース外のところには
椅子が置いてあって、
矢印で『あっち』みたいな感じで
紙が貼ってあった。
そして校舎に入った。
体育館の喧騒はどこかに消え、
PTA職員が設置したであろう
ラジカセからは、
お経が流れていた。
70~80メートルほどの
長い廊下は真っ暗で、
消火栓の赤いランプだけが
不気味に光っていた。
俺たちより先に出たペアは、
もう見える所には居なかった。
俺はビビリながらも、
当時2番目に好きだった子と
ペアだったから、
男を見せねば!
と思って気丈に振る舞い、
入ってすぐ脇の扉から、
マスクをつけた職員が
いきなり出てきても、
冷静を装った。
やっと廊下の突き当たりまで来た時、
俺とペアを組んでいた子は、
今来た道を振り返っていた。
誰も居なかった。
次のペアが来ても
おかしくないんだけど・・・
と思ったが、
本当に誰も居ない。
目線を戻そうとした時、
フッと人影がどこからか出てきた。
廊下の中ほど辺りに現れたその影は、
大人ほどの身長だった。
どこからともなく現れたその人影は、
遠くからでも分かるくらい、
髪の毛はボサボサだった。
衣服なんかもボロボロで、
猫背のような感じだったと思う。
俺たちの方を向いているのか、
それとも入り口を見ているのか。
よく分からなかったが、
俺はPTA職員かなと思った。
でも、それは違った。
影は壁の方を向いている。
腕をすっと前に
持ちあげるような格好に・・・
その腕の先には、
消火栓の赤いランプが灯っていた。
次の瞬間、
けたたましく火災報知器のベルが
廊下中に響いた。
俺も、一緒にいた子も、
何がなんだかよく分からず、
その影にしばらく見とれていた。
影はまだ、
火災報知器のボタンを押している
ようなポーズをとっている。
その時は別に、
怖いという気持ちはなかった。
女の子が「ねぇ早くいこ・・・」
みたいなことを言って、
俺たちは階段を上り、
2階へと上がった。
2階には先に出発したメンバーが
何チームか居て、
俺のペアも一緒に行動して
スタンプを全部集めていった。
なぜか友達には火災報知器の
ベルの話はしなかったし、
ペアを組んでいた女の子も、
その話をそこではしなかった。
肝試しの最終ポイントは理科準備室で、
そこでは体育の顧問の先生が、
アイスを配っていた。
俺はその先生をよく慕っていて、
急に安堵感に包まれ、
「先生!火災報知器を鳴らしてる
大人の人がいたよ!」
と、説明したんだ。
よく覚えていないが、
俺は半泣きになっていて、
女の子はぼろぼろ泣いていた。
でも先生は、
「そんなの押した人がいたら、
今頃は消防車が来ているぞ?」
と、まるで取り合ってはくれなかった。
でも、俺は確かに聞いた。
誰も居ない廊下で、
ボサボサ頭の影が鳴らした
火災報知器のベルの音を・・・
真っ暗な長い廊下は、
今でも鮮明に思い出す。
ちなみにこの学校は、
静岡県のH第一小学校だ。
(終)