雪が溶けた春に山小屋へ行くと
昔ね、2~30年前の話。
そこには山小屋があってね。
春になって雪が溶けてから、
係りの人が鍵を開けに行ったって。
そしたらね、
中で人が亡くなっていたって。
男の人だったって。
迷ってしまったのか、
それとも雪に降り込められて
下山できなくなったのか。
それはわからないけれど、
多分その人はお腹が空いていて
仕方がなかったんだろうね。
その人の口からね、
綿がはみ出していたって。
山小屋なんて言っても、
泊まれるような施設ではないの。
地元の人が山菜採りなんかに行って、
雨宿りしたり弁当食べたりする程度の所で、
座布団がいくつかあったって。
その男の人の腹の中から喉から口まで、
座布団の綿しか入っていなかったって。
近所の人は、
みんな不思議がったって。
だって、その山小屋、
近くの家まで歩いたって、
1時間もかからないはずなんだって。
怪我もしていないのに、
なんで助けを呼ばなかったんだろうね、って。
それを聞いた年寄りの人がね、
こう言ったって。
「雪に誑かされたんだね」
※誑かす(たぶらかす)
だまして惑わす。人をあざむく。
(終)
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