あいつは誰だったんだ?
これは今から数年前、
まだ学生だった頃の話だ。
俺は親しい友達と一緒に、
二人きりのキャンプをした。
キャンプと言っても、
小さいテントを持って近所の山で寝るだけの、
遊びの度合いが強いものだ。
結論から言えば、
そのキャンプ自体は何事もなかった。
途中、ランプが消えてしまって
パニックになったりはしたが、
月が出ていて暗闇に目が慣れれば、
意外と外がよく見え、
その景色を堪能したりした。
今でもその時の景色を覚えているし、
友達と話した内容も覚えている。
問題が起こったのは、
家に帰ってからだった。
そのキャンプ体験で、
キャンプが気に入ってしまった俺は、
友達からテントを借りて家に帰った。
家出したくなった時には
便利だとも思っていた。
だが小さいとはいえ、
テントは嵩張(かさば)る。
当然、母にバレた。
ここまではよくある話だが・・・
テントを誰から借りたの?と訊かれ、
友達の名前を答えた。
次の瞬間、
友達を思い浮かべていた母の顔が、
未だに忘れられない。
そして、
母はこう言った。
「・・・誰、その子?」
それ以来、
そのテントの持ち主の事を知っている、
という人には会った事がない。
当時は半狂乱の状態だったが、
今では「きっと脳内友達でもいたんだろう」、
と思い込む事にしている。
でも未だ覚えている。
友達との会話・・・
友達の表情・・・
あいつは誰だったんだ?
(終)