休憩室に隠されていた部屋 1/2

閉鎖

 

その弁当屋の2階にあったのは、

恐らく『開かずの間』だったと思う。

 

そこは学生時代の俺のバイト先で、

 

2階には資材や備品なども置いていたが、

スタッフの休憩室でもあった。

 

けれども・・・

誰も2階で休憩しない。

 

大きな窓があるのに、

昼間でも薄暗くて湿っぽい感じで、

 

そこへ資材を取り行く時でも

絶対に誰も一人で行きたがらない。

 

そんな時にバイトとして新しく入ってきた

美大生の女がいた。

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隠された部屋の中で見たもの・・・

自称“霊感持ち”で可愛いけれど、

 

ちょっと変わった女で、

よく2階でタバコを吸っていた。

 

なので、重くない資材などの移動は

その女に頼むようになり、

 

代わりに休憩時間外の一服を

皆が黙認にしていた。

 

店の資材在庫チェックの時も、

当然その女を面子に入れた。

 

他にも社員さん2人(A・B)と、

シフトだった俺。

 

そしてバイトのチーフの先輩の、

5人でやる事になった。

 

社員Bさんと先輩が電車の事故で遅れ、

とりあえず3人で始めた。

 

すると・・・

 

チェック表を下でコピーしていたら

上から悲鳴が聞こえた。

 

俺は慌てて階段を上っていると、

突然頭がびしょびしょに濡れた。

 

頭を触っても全然痛くないのに、

何故か大量の血が出ていた。

 

もちろん驚いたけれど、

 

女がギャーギャー叫んでいるので、

とりあえず2階に上がった。

 

女は壁の方を向きながら、

訳の分からない事を叫んでいた。

 

社員Aさんは座り込んで漏らしていた。

 

女が指差している方を見ると、

 

これまで壁だと思っていたところが

実際は“引き戸”だった。

 

中は畳を横に2枚並べたくらいの部屋で、

小さな虫の死骸が2センチほど積もっていた。

 

しかし、部屋の角の一箇所だけが

丸く30センチほど何も無い。

 

普通の和室っぽい壁に見えたが、

壁土に長い黒髪を混ぜて塗り込めてあった。

 

引き戸の裏も同じような感じになっていた。

 

訳が分からなくてボーっとしていたら、

遅れていた社員Bさんと先輩が来た。

 

血まみれだった俺は、

救急車を呼ばれて病院へ連れていかれた。

 

病院に着くと、

もう一人の社員Aさんも来ていて、

 

「有給と見舞金を出すから、

棚から物が落ちて怪我した事にしろ」

 

と言われた。

 

正直、金が欲しかったのと、

恐くてもうバイト先に行きたくなかったので、

 

俺は言われた通りにした。

 

頭の傷はそんなに深くなかったようで、

少し縫った程度で済んだ。

 

バイトは2週間くらい休んでも

構わないことになっていたが、

 

どうしても気になったので、

10日目くらいに顔を出した。

 

すると、先輩は居たけれど、

社員Aさんは体調を崩して長期休養していた。

 

女は学校も辞めて実家に帰るからと、

親と一緒に挨拶に来たと言っていた。

 

・・・が、

 

女は店に一歩も入って来なくて、

全然喋らなかったと。

 

薬が効いているかのように、

ボーっとしていた感じだったらしい。

 

社員Bさんを問いつめて聞いた話を、

先輩が聞かせてくれた。

 

店は元々普通の古い民家だったが、

 

人が居着かなくて困っていた所有者から

格安で借りていた場所らしい。

 

社員Bさんも詳しい事は知らなかったけれど、

 

「絶対いつか何か起こると思っていた」

と言っていたらしい。

 

引き戸を見つけて開けたのは女で、

 

「中から頭がぐるぐる回る人形が出てきた」

と繰り返していたらしい。

 

社員Aさんは何も話さなかったけれど、

 

まだショックを受けた状態で、

内臓も弱っているので入院中という。

 

しかし、家族の希望もあって、

近々退社するという事だった。

 

そして2階を見せてもらったら、

部屋は綺麗に掃除されていて、

 

引き戸も外され、

壁も塗り直されていた。

 

けれども、

雰囲気は全く変わっていなかった。

 

もの凄く嫌な気分になってしまい、

俺はその日でバイトを辞めた。

 

大学のある駅近くの店だったが、

 

その日から卒業までの間、

一度もそこを通らなかった。

 

社会人となり仕事でその駅に降りた時、

思い出して店を見に行った。

 

弁当屋は無くなって、

今風のカフェになっていた。

 

そして驚いたことに、

先輩が店長をしていた。

 

弁当屋は俺が辞めたすぐ後に

ボヤを出して潰れ、

 

同じ系列チェーンのカフェになった。

 

最初は社員Bさんが店長をしていたが、

 

違う会社に転職することになった時に、

先輩が店の権利を買い取ったという。

 

どうしても気になっていた2階の事を訊くと、

 

先輩はちょっと困ったような、

嫌そうな顔をして言った。

 

「やっぱり嫌な雰囲気があるので、

改装と御祓いをしてから倉庫にした。

 

それで、これ・・・多分だけど、

あの子が見たって言ってたやつだよね?

 

そうして俺に葉書を見せてくれた。

 

それは、

あの女からの絵画展の招待状だった。

 

(続く)休憩室に隠されていた部屋 2/2

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