生命の危機が訪れると
俺には時間が巻き戻る感覚が度々起こる。
一度目は、保育園から脱走した途端にトラックに跳ねられたはずなのに、その少し前に戻っていた事。
二度目は今年初めの事だ。
会社で作業中、有機溶剤を使っていて横にはコンクリートを切断している火花。
いつものことなので、さっさと終わらせようと手を動かしていたら突然引火。
手元から顔へ炎が噴き上がり、顔を大ヤケド。
眉毛がじゃりじゃりになって顔全体が火ぶくれに。
同僚に連れられて病院へ。
医者に手当をてしてもらいながら、段々と息が出来なくなり気が遠くなる。
「酸素マスク!」と医者が叫び、「ああ、ドジったな。ここまでか」なんてぼーっと考えていた。
すると、はっと気付くと何事も起きていなくて、その作業を始める前に戻っていた。
一日分やった作業が消えている。
「ヤケドした夢?」と思ったが、記憶通りに作業工程が進み、別工程をしていた同僚が近くでコンクリートカッタ―を使い始めた。
「やべっ!」と思って俺は作業を中断。
現場監督に、「すいません。腹が急に痛くなって・・・」とばっくれた。
もしかしたら一度目の自分と二度目の自分は、別次元であのまま死んだんじゃないかと思っている。
三度目の正直が怖いので、注意深く生きてくつもりだ。
ちなみに、巻き戻しの起きた前も後も、自分の記憶がおかしいだけで世間には何の影響も無い。
でも、何かにもて遊ばれているような気もしている。
「きっと、この次はない」という予感をひしひしと感じている。
(終)