道に迷っているうちに行き着いた場所

田舎道

 

その日、車で会社から友達の家に行こうとして道を曲がり、少し走ったところで間違えたと気付いた。

 

引き返そうと思ったが、道は狭いし運転に自信ないしで、ヤケになってそのまま進むことにした。

 

幸い、天文に興味があったので、星の位置で方角が分かる。

 

海沿いの町だから東に進めば海岸通りの国道に出るはずだ、と分かれ道では車を降りて星を確認しながら進んだ。

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なぜ変だと思わなかったのだろう

しかし、10分走っても20分走っても海岸沿いに出られない。

 

次第に道路も砂利道になり、川岸にはガードレールも無くなった。

 

さすがに不安になって「迷子になっちゃったか・・・」と思っていたら、突然ひょこっと民家の前に出た。

 

最近ではほとんど見なくなった地元独特の形をしたかやぶき屋根の家の前。

 

黒色のもんぺを履いたおばあさんが鶏に青菜をあげている。

 

おばあさんもこちらに気付き、物凄く驚いているようだった。

 

俺は車から降りて、「驚かせてすみません。ここは何処でしょうか?」と尋ねたが、おばあさんは住所がよく分からない様子。

 

行き詰った俺は友達に連絡しようと携帯を取り出したが、圏外だ。

 

おばあさんに庭先で申し訳ないと謝りつつ、車をUターンさせて来た道を戻った。

 

帰りは驚くほどあっさりと最初に曲がった道に出た。

 

時計を見ると、おばあさんの家を出てから10分も経っていない。

 

友達の家に着いてからその話をすると、「あの辺りにそんな道はない」と言う。

 

俺は「そんなことない」と言って、今度は二人でドライブがてら曲がり角に向かった。

 

しかし友達の言う通り、ついさっき曲がった辺りに道はない。

 

少し違う場所に林道があったが、入り口に『関係者以外立ち入り禁止』の柵が置かれ、道自体もすぐ行き止まりになっているようだった。

 

再び友達の家に戻り、おばあさんの家の話を繰り返しているうちにハッと気付いた。

 

友達の家に向かおうと会社を出たのが夜7時頃。

 

そして、今の時刻は夜10時30分。

 

外は真っ暗なはずなのに、おばあさんの家に着いた時は昼間だった。

 

茶色や白色など色の混ざった鶏がいたのも、家の前の畑に大根やら何やら植えられていたのも、縁側にトウモロコシと並んで洗濯物が干してあったのも、はっきり見えていた。

 

俺はあの時、「ああ、天気が良いから鶏を外に出してるんだ」と普通に思っていた。

 

その光景を、なぜ変だと思わなかったのだろうか。

 

それから一年、事あるごとにおばあさんの家への曲がり角を探したり、怪しい山道に曲がって迷子になったりしているが、あれ以来、おばあさんの家には辿り着けていない。

 

(終)

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