鬼ごっこの「鬼」をやり続けている子
里帰りしていて、姪を保育所へ迎えに行った時の事。
4歳になる姪を迎えに行くと、保育所の庭で楽しそうに走り回って遊んでいた。
その保育所は俺も卒業生なんだけれど、神社と同じ敷地内にある。
数人の子たちと一緒に走り回っているが、見た感じ『鬼ごっこ』をしているようだ。
でも、鬼の子が誰だか分からない。
鬼が見当たらないというか、みんなしてキャーキャー言いながら何かから逃げている感じがする。
先生に挨拶して姪を呼んでもらい、手を繋いで帰る途中に訊いてみた。
鬼の子は神社から来る?
俺「誰が鬼だったの?」
そしたら姪っ子は、「鬼の役は鬼に決まってるでしょ」と言う。
エア鬼ごっこか?と思って、深くは追求しなかった。
その日の夜、姉と母が居るところで訊いてみた。
姉「いや?そんな話は聞いてないけど。てか、あんたも小さい頃は同じようなことしてたじゃん」
俺「へ?エア鬼ごっこ?」
姉「うん。鬼ごっこのルールも知らないで遊んでるんかと、姉ちゃんは情けなくなったもんよ」
母「何言ってんの。あんた(姉)もやってたわよ」
姉「うっそ?!あたし覚えてないわ」
母「あの保育所に通ってた子は、みんな鬼無しで鬼ごっこしてたよ」
それで思い出した。
俺がここに通っていた頃、毎日のように鬼ごっこをして遊んでいた。
そして、鬼はいつも同じ子だった。
ジャンケンで決めるとかなくて、鬼は決まった子がやっていて、誰も捕まえられた事が無い。
だからその子はずっと鬼だった。
それで、「捕まったら死んじゃう」というルールだった。
本当に死ぬとは思っていなかったが。
鬼がいつも同じ子だったのは、イジメとかではなかったと思う。
その子はいつも神社の方からやって来て、姿を見かけたら鬼ごっこがスタートしていた。
小さい頃は全く疑問に思わなかったけれど、鬼ごっこ以外の室内遊びの時はその子は居なかった。
そして、全員が同じ小学校に上がったはずなのに、その子だけは居なかった。
そう言えば、名前も知らない。
それどころか、顔も姿も思い出せない。
姉にその話をすると、全く記憶に無いと言われた。
気になったので幼馴染に電話してみたけれど、誰も覚えていなかった。
その子の存在自体、誰一人として覚えていないのだ。
姪っ子に、「鬼の子は神社から来る子?」と訊いてみた。
すると、「ん~?なぁ~に~?」と会話にならなかった。
よく、『小さい頃に遊んでいたけれど自分の記憶にしかない』という話があるけれど、それって二人きりで遊んでいる事が多い。
なのに、沢山の友達が一緒だったのに誰も覚えていない。
しかも、まだその子はあの場所に居て、今でも『鬼』をやり続けているようだ。
どうして俺だけが思い出したのだろうか・・・。
(終)