あのタクシーは一体何を降ろしたんだ?
一昨年くらいにあった出来事。
当時の俺は、女の子をデリバリーする仕事をしていた。
女の子を車でお客のところまで届け、他の子が近くに居ない時や店が暇な時は、その子が出てくるまで車で待機する。
マンションの前でエンジンを切って、街路灯の明かりで漫画を読んだりしていた。
そんなある日のこと。
深夜2時くらいに郊外のマンションに女の子を届けに行った。
その地域は若干寂れていて、時間も時間だし人通りは全く無い。
いつものように女の子を届けた旨を事務所に電話すると、待機指示が出たので車の中で漫画を読んで暇を潰す。
煙草を吸うので窓をちょっとだけ開けていたのだが、その隙間から車が近づいてくる音がした。
漫画から目を離してバックミラーをちらっと見たら、ちょうど俺の車の後ろにタクシーが止まっているところだった。
タクシーの助手席前にある機械が、【割増】から【支払】に変わる。
「ああ、こんな時間だし、客は飲み屋で働いてる姉ちゃんかもしれない」
そんな無駄な期待を胸に、タクシーの後ろのドアが開く様子をワクワクしながらバックミラーを見ていた。
しかし、タクシーからは誰も出てくる事はなく、数秒のちにドアがバタンと閉まってしまった。
「???」
軽く混乱していると、タクシーは【空車】に変わり、ウインカーを出して発車した。
思わず「えっ?」と声を出し、自分の車の右を追い越していくタクシーの後部座席を凝視すると、誰も乗っていない。
耳を澄ましても、微かな風の音しかしない。
周りをキョロキョロと見渡してみても、誰もいない。
「あのタクシーは一体何を降ろしたんだ?」
そう思った瞬間、一気に鳥肌が立った。
(終)