無断欠勤が続いた同僚の家を訪ねると 1/2
深沢(仮名)とは今勤めている会社で知り合った。
俺が入社した時、色々と面倒を見てくれたのが深沢だ。
深沢の指導は大雑把なもので、几帳面な俺はかなり戸惑ってしまった。
だが同い年であったことと出身地が同じであったことで一気に親しくなっていった。
俺と深沢は毎日ように飲みに行った。
二人とも車が好きで、話題には事欠かなかった。
だが、入社して半年ほど経った頃から深沢の付き合いが悪くなった。
俺たちの関係は至って良好だが、飲みに行く回数は明らかに減っていた。
慣れない環境にいる俺に、気を遣ってくれていたのだろうか?
そういえば、深沢は意外と酒の量は少ない。
元々そんなに飲むタイプではないのかもしれない。
それから3ヶ月程経つと、次第に俺たちの会話は少なくなっていた。
俺からは話しかけるのだが、深沢から話しかけてくることが少ない。
あったとしても仕事の内容がほとんどだ。
何か悪いことでもしてしまったのだろうか?
俺は他の同僚に相談したが、皆一様に深沢に変わった様子はないと言う。
以前は明るくて毎晩のように飲みに行っていたと説明しても、何故か皆揃って釈然としない表情だ。
俺は理解に苦しんだが、考える時間は与えられなかった。
というのも、深沢が突然無断欠勤し、それから一週間もの間、出勤することがなかったのだ。
俺や上司は何度も連絡したが、その都度徒労に終わってしまった。
緊急連絡先となっていた深沢の実家の電話番号は使用されていなかった。
心配になった俺は上司に深沢の住所を聞き、様子を伺いに行くことにした。
とんでもない光景を見てしまう
昭和を思わせる古い木造アパート。
敷地は荒れ果て、雑草が生い茂っている。
深沢の部屋は2階の一番奥だろう。
錆びだらけの階段を上って通路を進むと、確かに『深沢』の名が記された表札があった。
ドアの新聞受けは溢れかえっている。
親しい仲であったものの、こうして深沢の部屋を訪れるのは初めてだ。
俺は呼び鈴を押した。
・・・・・・・・
反応が無い。
居ないのか?
今度はドアをノックし、自分の声で呼びかけた。
「深沢!居るか?!○○(俺)だけど!」
・・・・・・・・
やはり返事は返って来ない。
寝ているか、外出しているのだろう。
「だが待てよ、何か重い病気で動けないのかもしれない」
そう思い、俺はそっとドアノブを回した。
鍵は掛かっておらず、ドアは開いた。
ギギギギギと不必要なほど大きな音をあげながら。
いきなり面食らってしまった。
玄関は何故か泥まみれだ。
奥のドアまでその泥は続いている。
とても靴無しでは上がることは出来ない。
しばらく思案したが、悪いと思いながらも土足のまま中へ入ることにした。
玄関を入ってすぐの所にキッチンがあり、シンクには並々と水が張られている。
そこには小さな虫の死骸が幾つも浮かんでいた。
何故か食器類は見当たらない。
何だかよく分からないが、キッチンを見ていても仕方がない。
恐らく1Kであるから、深沢が居るとすればこの先の部屋か、トイレ、風呂のどれかだろう。
そう思いシンクから目を離すと、部屋へ続くドアが少し開いていることに気が付いた。
隙間からは何も見えない。
不気味な雰囲気が漂ってくるのは気のせいだろうか?
「・・・・・」
俺は意を決してドアを開いた。
部屋の明かりは消えている。
6畳ほどの広さ。
カーテンから僅かに光が漏れている。
何も無い部屋だ。
テレビも、テーブルも、家具や家電は何も無い。
だが部屋の一角に、一際大きな、そしてドス黒い大きな影を見つけた。
その影の主は、なんと『2メートル以上はある巨大な朽木』だった。
※朽木(くちき)
腐った木。朽ちた木。
それは小さな部屋には収まりきらず、天上を少し突き破っている。
全体が黒く変色していて、ぐっしょりと湿っているようだ。
下の方に生えた、カビともコケとも判らぬ奇妙な植物が畳に広がっていた。
所々に赤黒い布のような物が無造作に巻き付けられ、その上に見たこともない字で何か書かれている。
「な・・・なんだ、これ?」
この朽木の異様さも勿論だが、なぜこんな物が深沢の部屋にあるのか?
よく見ると、木の左右には自然石だろうか、サッカーボール程の石が階段状に器用に積まれている。
それは腰の高さ程で、一番上にはロウソクが無造作に散らばっている。
他にも様々な仏具のような物が散らばっているが、その用途や名称は分からない。
俺は部屋の明かりを点けようと、スイッチの紐を引っ張った。
だが、何度引っ張っても蛍光灯は光を灯さない。
突然、顔に何かが触れた。
「うわっ!」
とっさに手で払って気が付いた。
薄暗いため見えなかったが、所々に小バエがいるようだ。
不気味で巨大な朽木と儀式の様な形跡、不衛生極まりない部屋。
一体、深沢の身に何が起きたのだろうか?