無断欠勤が続いた同僚の家を訪ねると 2/2

アパート

前回までの話はこちら

深沢のことは心配だが、正直なところ俺はさっさと退散してしまいたかった。

 

恐らく深沢は居ないだろう。

 

帰りに風呂とトイレを覗いて、それでアパートを出よう。

 

後は警察に連絡すればいい。

 

そう思い、部屋を出ようとした時。

 

「パリ」

 

「!?」

 

何かが聞こえた。

 

「ペリ」

 

「!!」

 

まただ。

 

木だ。

 

朽木から音が聞こえる。

 

もう嫌だ。

 

こんなところからは逃げ出したい。

 

しかし本心とは裏腹に、確認せずにはいられない。

 

きっと虫がいるのだ。

 

そうであって欲しい。

 

俺は朽木に近づき、目を凝らした。

 

よく見ると、所々に大きな釘が深々と打ち付けられている。

 

また気味の悪い物を見つけてしまった。

 

そう思いながら、朽木の表面を舐めるように見回していたその時・・・。

 

「ヒィィィィ!!」

 

俺は思わず声をあげた。

 

目だ!

 

木の皮の隙間から何かがこちらを見ている!

 

目をカッと見開き、俺をじっと見据えている!

 

俺は反射的に後ずさった瞬間、足がもつれて転んでしまった。

 

尻餅をついた格好だ。

 

「バキッ!ベキッ!メリメリ!」

 

朽木の内側から不気味な手が這い出てくる。

 

明らかに人間だ。

 

この朽木の中に人間が入っていた。

 

内部は空洞で、そこに人間が入っていたのだ。

 

そして・・・見ていたのだ。

 

ずっと・・・俺がこの部屋に来てからずっと・・・。

 

朽木の皮が次々と剥がされていき、薄暗い部屋の中でもその姿がはっきりとしてくる。

 

そこに居たのは、なんと深沢だった。

 

髪がほとんど抜け落ち、肌は紫色に変色している。

 

顎がだらりと下がり、唾液や泡を吹きこぼしている。

 

黒いムカデのような気味の悪い虫が、何も着ていない深沢の身体を這い回っていた。

 

おぞましい姿ではあるが、深沢であるとすぐに分かった。

 

「あ・・・深沢?・・・ぁあ・・・」

 

恐怖で言葉にならない。

 

深沢の身体は所々出血している。

 

あの釘が刺さっていたのだろうか?

 

血走った眼球は、異様な速さで縦や横に動いていた。

 

「フシュ!フシュ!」

 

唾液を撒き散らしながら、フラフラとこちらへ歩いてくる。

 

「く・・・来るな!」

 

全身がガタガタ震えて力が入らない。

 

俺は尻餅をついたまま、深沢を凝視することしか出来なかった。

 

もう深沢は目の前にいる。

 

「グゥエ!オェ!」

 

苦悶の表情の後、深沢が唐突に嘔吐した。

 

緑色のネバネバした液体にまみれた奇妙な物体が、俺の足元に吐き出された。

 

今まで見たこともない物体だ。

 

知ってはいるが、知らないモノ。

 

それは、『人間』だった。

 

小さな人間だった。

 

いや、”人間の形をした何か”だった。

 

それは無表情でじっと俺を見つめている。

 

深沢は自らが吐き出したその物体をしばらく眺めていた。

 

そして、ゆっくりとこちらを向き、満足げな表情でニタァと笑った。

 

深沢と目が合った瞬間、恐怖で気が狂うかと思った。

 

いや、俺は狂っていたのかもしれない。

 

それは深沢のせいではない。

 

無論、深沢も凄まじく恐ろしかった。

 

だが、見たのだ。

 

その時もっと恐ろしいモノを・・・。

 

深沢の背後にある朽木の裂け目から、『深沢と同じ姿をしたモノ達』が這い出てくるのを。

 

生存本能だろうか?

 

真っ白な頭の中でも、「逃げなければ」という強い衝動だけが俺を突き動かしていた。

 

俺は一気に部屋の外へ飛び出し、玄関へ駆け出した。

 

外へ出る瞬間、俺は無意識に振り返っていた。

 

その時に見たものは、深沢自身が深沢と同じ姿をしたモノ達にムシャムシャと喰われている光景だった。

 

深沢は、あの時に見せた”満足げな表情”のままだった。

 

俺は気が付くと病院のベッドに居た。

 

道端で気絶しているところを運ばれたらしい。

 

あの日から2日が経過していた。

 

俺は入院の為に会社を辞めた。

 

全てを忘れたかった。

 

全てが夢だったと思いたかった。

 

上司や同僚には何も話せなかった。

 

ただ、「深沢は居なかった」とだけ伝えた。

 

その後、深沢の捜索願が出されたが、行方不明のままらしい。

 

あれは深沢ではないのか?

 

警察は深沢の部屋を調べたはずだ。

 

指紋のせいだろうか、俺も疑われたが、容疑はかからなかった。

 

退院後、数年間はカウンセリングに通った。

 

「あの日の出来事は何だったのか?」と落ち着いて考えられるようになっていた。

 

何か知っていたら教えて欲しい。

 

あの不気味な朽木と儀式の様な痕跡、深沢の変わり果てた姿。

 

そして、あの『人間の形をした何か』『深沢と同じ姿をしたモノ達』は何だったのか?

 

あれから5年も経つが、深沢は未だに行方不明だ。

 

(終)

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One Response to “無断欠勤が続いた同僚の家を訪ねると 2/2”

  1. 匿名 より:

    会社勤めなのに、ひとりで訪問したのは軽率だったね
    住居手当関連で連絡先は把握できているはずなので、アパートの管理会社にも合鍵を持って来てもらって立会を依頼すべきだった

    郵便受けから物が溢れている時点で、事件自殺失踪の可能性を考慮して会社に連絡、場合によっては警察官立ち合いを求めるべき

    突入して疑われるのは自分だよ

    今回の証言も、ひとりだけだから夢や妄想と判断されたのだろうし

    複数人いれば深沢を引っ張り出して、助けてあげられた可能性もあったかもしれない

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