別の世界に迷い込んでしまったのかもしれない

異空間

 

単なる偶然かもしれないし、本当に何か不思議な話かもしれない。

 

先日、買った車(赤のカローラ・フィールダー)が納車になり、試運転もかねて地元の神社に行った。

 

特に全国的に有名な神社ではないのだが、一応は一の宮なので規模もそこそこ。

 

※一の宮(いちのみや)

ある地域の中で最も社格の高いとされる神社のこと。

 

昼飯を食べてから実家を出発。

 

田舎道を1時間ばかり運転して、神社の駐車場に到着した。

 

車の中でタバコを吸いながら休憩していると、妙なことに気づいた。

 

駐車場には俺しかいない。

 

100台くらいは停めれそうな駐車場に、俺の車しかいないのだ。

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30年の時間を越えて

普段なら、参拝に来た地元の年寄りの軽トラやドライブがてら来たみたいな感じのミニバンがいるのだが、1台もいない。

 

何だか気持ち悪く感じて、外に出ることも出来ず。

 

かといって軽いパニック状態なので、エンジンをかけて帰るということも思いつかず。

 

ただひたすら、「何かおかしくね?あれ?何で?何かおかしくね?」という感じでテンパっていた。

 

真昼間なのに、何か凄く不気味な感じがした。

 

何分ぐらい経ったのか分からないが、ふいに1台の白いセダンが駐車場に入ってきて、俺の車から少し離れたところに停車した。

 

角ばったボディに4つ目のなんとも古めかしい車なのだが、古い感じがしない。

 

古い車なら塗装がボケていたり、ナンバープレートの文字が褪せていたりと、薄汚れた感じのいかにも古い感じがするけれど、そういうのが一切ない。

 

普通に街中を走っている現行車のようだった。

 

「俺以外にも人がいた」と思って少し落ち着いたのだが、もっと人が居てもおかしくない昼間なのに2台きりというのがやはり不気味だし、なんだか居心地が悪いので家に帰ることにした。

 

家に帰ってから、何気なく神社での出来事を親父に話した。

 

すると、ビックリした顔で「それ爺さんかも知れんぞ」と言い出した。

 

爺さんは10年以上前に亡くなっているので、車を運転して神社に来るわけがない。

 

訳が分からないので詳しく話を聞くと、30年以上前にこんな事があったらしい。

 

ある日、爺さんがまだ幼稚園児だった俺を連れて、神社までドライブに行くと言って出て行った。

 

帰ってくるなり、「神社に妙な車がいたが、あれは外車か?」と親父に尋ねたそうだ。

 

たぶん凄く印象に残っていたので、車好きの親父にどこのメーカーの車か教えてもらいたかったのだろう。

 

どんな車かと特徴を聞いてみたが、当時の親父が知る限り、そんなデザインの車はない。

 

というより、話を聞く限り、当時のデザインの常識からはかけ離れた感じで、どの国産車や外車にも当てはまりそうにない車だった。

 

爺さんが言うには、神社の駐車場に着くと自分の車以外には、“釣り目ライトで新幹線みたいに丸みを帯びた、のっぺりとした赤いライトバン”が1台停まっているきりで、そのライトバンもしばらくすると行ってしまい、1台きりの駐車場が何だか不気味で参拝もせずに帰ってきてしまったそうだ。

 

 

当時の車事情をご存知の方なら分かると思うが、昔は乗用車といえばセダンが主流で、ステーションワゴンはライトバンと呼ばれて実用本位の車とされ、乗用で乗る人は少数派だった。

 

当然、色も白や銀が多かったので、華やかな感じがする赤色でライトバンは珍しかったのだろう。

 

デザインも、箱を組み合わせたようなカクカクした車が多かった。

 

ライトも角型か丸目で、釣り目ライトなんて見たことも聞いたこともない。

 

爺さんの話を聞いた親父は、「何かの用事で神社に来ていた消防のライトバンだろう。釣り目ライトや流線型はそのライトバンが動いていたからそう見えたんだ」と説明したが、爺さんは腑に落ちない様子で、しきりと「気味が悪い」と繰り返していたそうだ。

 

白いセダンと妙なデザインの赤いライトバンだけの、何だか気味の悪い感じのする駐車場。

 

それはまさしく俺が体験した状況そのものであり、爺さんが見たライトバンも俺の車に当てはまる部分が多い。

 

俺が見た白いセダンについても、「車種やメーカーが分からなかったので断定は出来ないが、丸目4灯、フェンダーミラー等、当時の爺さんが乗っていたトヨタ・コロナの特徴に当てはまるように思う」と親父は話してくれた。

 

偶然が重なり合っただけかもしれない。

 

たまたま参拝客の少ない日に爺さんが何かの車を見間違え、30年後、何故か参拝客の少ない日にドライブにきた俺の目の前に愛好家が運転する旧車が現れた。

 

ただそれだけの話かもしれないが、がらんとした駐車場や、昼間なのに何ともいえない不気味な空気を思い出すと、『”何か”が起こって、俺と爺さんが30年の時間を越えて神社の駐車場で遭遇した』、そうとしか思えない。

 

あとがき

不思議という感覚もあったが、不気味な感じの方が強かったように思う。

 

自分がよく知っている地元の神社のはずなのに、別の世界に迷い込んで、見てはいけないものを見てしまったような・・・。

 

漠然と、「ここはヤバイ。これ以上ここにいちゃいけない」という気持ちになったことを覚えている。

 

俺はあまりオカルト的なものは信じないが、自分の理解が到底及ばないような“何か”が起きたのだと思う。

 

あの日に感じた、何とも不思議で不気味な体験を誰かに伝えたくて。

 

(終)

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