幽霊の住む世界に迷い込んでしまう

町

 

およそ10年前、当時は青森に住んでいた時の話。

 

中学生だった俺は、青森市●●会館という場所に所用で来ていた。

 

用事も終わり、さあ帰ろうと思って施設内の時計で確認した時間は、確か17時過ぎ。

 

外の公衆電話で父親を呼び出して帰ろうとしたのだが、「まだ仕事があるから無理」と断られ、歩くかバスを使って帰ることになった。

 

仕方ないので歩き出したが、少し時間が経ってから“外の様子がおかしい”ことに気がついた。

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誰もいない空間へ

まず、夕方にしては外が異様に暗い。

 

それでいて、人の姿がない。

 

車すら走っていない。

 

コンビニも含め、あらゆる店が全て閉まっている。

 

ガソリンスタンドも途中にあったが、やはり店員の姿はなく、営業していない様子。

 

その暗い街中で、街灯と信号機だけが光っていて、道はオレンジ色に照らされていた。

 

この異常な光景に不安を覚えながらも、一つ一つ自分の記憶と照らし合わせ、歩くこと30分。

 

バス停か、帰り道に繋がる地下通路へ向かう為の目印にしていたマクドナルドを探すも、見つからない。

 

本来ならローソンの横にマクドナルドがあるのだが、ローソンがあってマクドナルドがない。

 

来た道を戻り、また記憶と照らし合わせて歩くも、やはりない。

 

だが、マクドナルドがない以外は同じ立地。

 

「記憶違いか?」と思って、その場所からバス停を探すも、見つからない。

 

最後の望みで地下通路を探していたら、急に変な場所に出て、見たこともない通りに出た。

 

不安はさらに増すも、なんとか帰らなければと黙々と歩く。

 

ふと見上げると、『この先 十和田まで●キロ』という看板があった。

 

俺は、「はぁ!?」となる。

 

完全に道が違うと確信した俺は慌てて引き返すも、またしても見たことのない場所に出てしまった。

 

そこは路地裏のような場所で、ようやく人影を発見した。

 

奥の方で一つの黒い人影がユラユラと揺れている。

 

「酔っ払いのおっさんか?」と思うも、人影は一瞬で消えてしまい、また次の瞬間に違う場所にそれが現れた。

 

明らかに異常な空間で、不安も絶頂に達していた。

 

半ばパニックだった俺は、直感で『逃げる』という選択をし、走り出した。

 

どう走ったかは覚えていないが、とにかく必死に。

 

そして気がつくと、青森市●●会館の前まで戻っていた。

 

それも、ほんの数分で。

 

慌てて電話ボックスに走り、また父親に電話をする。

 

「仕事も終わったし今から迎えに行く」と言われ、とりあえず俺は安心した。

 

20分程して父親が運転する車が到着する。

 

車に乗り込み、今まであったことを父親に話しながら車外を見てみると、辺りの店は閉まっていなかったし、人もいて、車も走っていた。

 

その光景を見た俺は、本当に呆気にとられた。

 

あとがき

余談になるが、俺の一家は拝み屋の家系だとかで、霊感家族らしい。

 

この『誰もいない空間』には生きていた人間はいなかったものの、透明な人間は多くいた。

 

信号機の上に座っていたり、謎の行列をなしていたり。

 

だからこそ、その異常さが半端なく怖かった。

 

当時は、現実の世界が変に歪曲して構築した『幽霊の為の世界』だと認識していた。

 

あの世に行っても、生きている時と同じ社会が構築されていることがあるらしいが、もしかしたら俺はそこに迷い込んだのかもしれない。

 

そんな世界と現実世界の出入りというのは実に妙な体験だった。

 

(終)

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