待たせ過ぎて幽霊を呆れさせてしまった
遅めの連休をもらって帰省した時に思い出した事がある。
10年程前、大学受験を控えて自室で勉強していた。
俺の部屋は、入って正面にロフトベッドがあり、上がベッドで下が机の学習スペースになっている。
そして、部屋のドアの横にはスタンドミラーが置いてあった。
勉強の合間の息抜きにと思い、上のベッドで横になって漫画を読んでいる時にそれは起こった。
自分のものではない溜息が・・・
ふとドアの横のスタンドミラーに目をやると、下の机に座っている誰かの後ろ姿が見える。
男なのか女なのか分からないが、黒い髪が床まで伸びていて、まるで貞子のような感じだった。
その時、俺は呼吸も心臓も一瞬止まった様に思う。
頭の中も大混乱だ。
「何で?」、「誰?」、「意味わからん」という単語しか出てこない。
いかん、落ち着け。
焦るな。
取り乱すな。
気付かれるぞ。
平静を装うんだ。
呼吸を整えるんだ。
奴に察知される挙動の隙を与えるな。
どうなんだ?
奴の存在に俺が気付いた事に、奴は気付いているのだろうか?
鏡の角度から、上から下は見えても下から上は見えないはずだ。
でも普通の存在ではないのだから、そんな物理法則が通用するのか?
が、実際にこの物理世界に身を置いている以上、ある程度はその法則に縛られるのではなかろうか?
いやいや、それらを超越した存在こそが霊の概念だとしたら?
となれば、俺の心拍数や脈拍なんかでも、こちらの様子を察知できるのだろうか?
むしろそんな超越した存在なら、心を読むという事も出来るのでは?
しかし、心拍数にしろ心にしろ、読み取る対象たる俺に何らかの干渉や接触等が必要になってくるはずだ。
思い過ごしか?
だがそれなら・・・。
いつの間にか自分の中で議論というか長考にはまってしまい、目の前にいる幽霊の事をそっちのけで検討していた。
どれくらい時間が経ったか。
まだ一人でブツブツと考えていると、突然「ハァ・・・」と明らかに自分のものではない溜息が聞こえ、途端に幽霊の存在を思い出して焦り、鏡を見たが何も映っていなかった。
もしかすると、待たせ過ぎて呆れさせてしまったのかもしれない。
(終)