看護学校の寮の窓から覗く女の霊

窓

 

もう10年以上も経っているので思い出話に。

 

当時の私は看護学校の寮に入っていた。

 

歴史のある医療機関の付属看護学校なものだから、それなりに寮も古い。

 

和室に2段ベットが2つの4人部屋で、狭いがそれ故に仲が良かった。

 

寮生は1学年で30人くらいで、中には『みえる』子もいた。

 

小川さん(仮名)という子だったが、その子が「怖いので話を聞いて」と言う。

 

何が怖いか聞いてみると、夜中に窓から女の人が見えるのが怖いとの事。

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勘弁してやってくれないか

それを聞いてピンときた私は、「長い髪の白い着物を着た女の人?」と尋ねると、その通りだと言う。

 

「害は無いので相手しなければいいよ」とだけ注意しておいた。

 

まあ、夜中に2~3階の窓から知らない女の人に覗かれていたら怖いのかもしれない。

 

着物も死装束っぽかったし。

 

ただ、悪いものは感じなかった。

 

・・・が、もうちょっと真面目に注意しておけばよかったと後悔した。

 

その数か月後の7月下旬、小川さんが病院実習中に倒れた。

 

病院なので処置は早い。

 

すぐにICU(集中治療室)に運ばれた。

 

両親は県外在住で到着が遅くなるため、実習中だったが寮長だった私が詰所に呼ばれた。

 

担当医師の説明では、血糖やら脳波、CT等も調べたが、原因が分からないとの事。

 

心当たりはないか?と聞かれたが、こっちも「分かりません」としか答えられない。

 

だが、ICUに入って気付いた。

 

彼女が小川さんを覗き込んでいる。

 

黒髪がバサバサと、小川さんの酸素マスクにまで掛かっていた。

 

白いと思っていた着物は多少黄ばんでいたが、顔は無表情。

 

他にも、何か怒っているらしいことは分かる。

 

普段は寮周辺にしか居ないくせに、よくここまで来たなぁと感心したが、機器類に囲まれた真昼間の明るい部屋で、古めかしい恰好の彼女の姿は結構シュールだった。

 

彼女はすぐに私に気付いた。

 

まっすぐ立って、今度はじっと私を見ている。

 

小川さんが彼女を怒らせたんだろう。

 

仕方ないので、勘弁してやってくれないかとお願いした。

 

顔色も悪く、目も真っ暗で、相変わらず無表情だったが、私のお願いを聞いた彼女はすぐに消えた。

 

昏睡状態の小川さんには、「そのうち目が覚めるからね~」と頭を撫でておいた。

 

看護師には礼を言って、私はすぐにICUを出た。

 

夕方には小川さんは目覚めた。

 

両親にも面会できたらしい。

 

両親には「お世話になりました」と礼を言われたが、原因はやっぱり分からなかったようだ。

 

首を傾げていた両親には、「暑いし、実習疲れもあったのかも」と言っておいた。

 

小川さんはその後も検査していたが、結局は異常なし。

 

翌月、扇風機とコタツはあった寮に、クーラーが新しく設置された。

 

昏睡していた小川さんからは、「声が聞こえた、ありがとう」と言われたので、むやみやたらに悪口は言わないよう厳重注意した。

 

その後も窓の外から彼女は覗いていたが、じっと見るのではなく、すうっと飛び去るようになった。

 

小川さんはその後も彼女を見ていたのかどうか、どんな言葉をかけたのかは知らない。

 

ただ、両親が持って来られた山口名物のウイロウは旨かった。

 

クーラーも設置されてラッキーだった。

 

めでたしめでたし。

 

最後に、この寮に心当たりのある学生がいて、窓から覗き込む女の人がいたら注意するように。

 

(終)

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