公園のベンチに座り込んでいたお爺さん
これは今でも不思議に思っている、実際にあった話。
俺が小学5年生だった頃の出来事だ。
その日の学校の帰り、公園のベンチに座り込んでいたお爺さんがいた。
お爺さんは胸の辺りを押さえていたので、俺は「大丈夫ですか?」と声をかけたら、「カバンの中の薬を出してくれ」と頼まれた。
近くにカバンが落ちていたので、中から薬と水筒を取り出してお爺さんに手渡した。
薬を飲み終わったお爺さんは、「坊や、優しいね。ありがとう。大人になってもこの優しさを忘れちゃだめだよ」とお礼を言われた。
俺は知らない大人から誉められたのが嬉しくて、急いで家に帰って母に報告した。
すると母は、「あそこの公園?薬と古い水筒出さなかった?」と聞いてきたので、「うん。渡した」と話した。(母に言ったのは薬のことだけで、水筒の事は話していない)
すぐに母と一緒に公園に行き、お爺さんを探したが見つからなかった。
なんでも、母も子供の頃に全く同じ体験をしたとか。
後から知った事なのだが、昔に80歳くらいのお年寄りが公園のベンチで座り込んだまま亡くなっていた事があったそうだ。
その時のお年寄りの所持品が、心臓の薬と古い水筒だった。
そして現在、うちの娘は小学4年生。
俺も通っていた同じ小学校に通学している。
一応、娘にはこの話はしてあるので、もしもこの出来事に遭遇したら『名前』を聞くように頼んである。
その方の名前が分かったら、母と俺と娘で墓参りに行こうと思う。
(終)