捜索中に上流から流れてきた有り得ないもの
今の家に引っ越して来る前、我が家はすごい田舎の村に住んでいた。
周りを山に囲まれ、大きな川もいくつもあり、ほとんど外界の人が来ることはなかった。
ある日のこと、学校から家に帰ると、父がちょうど出かけるところだった。
長靴にカッパズボンと明らかに普通の格好ではなく、さらにはもの凄く険しい表情をしていた。
神様に連れていかれちゃった
そんな父が何故出かけるのか気になり、長靴を履こうとしている父に「どうしたん?」と聞いた。
すると父は、「ヒロちゃんが川で遊んでて行方不明になった」と険しい顔で言った。
ヒロちゃんというのは近所の子供で、3歳くらいの年齢だ。
家のすぐ近くに川があり、母親と一緒に水遊びをしていたらしい。
そして母親が家の電話に気づき、「川から上がって待ってなさい」と言い残して家に戻った。
だが、戻った時には既にヒロちゃんの姿はなかった、ということだった。
川は岸側の方は基本的に緩やかだが、真ん中はかなり流れが強い。
流されて下流の方へ行った可能性があるということで、父は捜索隊として行くという。
それだけ言うと父は「行ってくる」と言って行ってしまったが、俺もヒロちゃんの事はよく知っていたし、ここから川まで歩いて2分程ということもあったので、手伝いに行こうと長靴を履いて川へ向かった。
川へ着いてみると、既に何人もの大人が川に入り探していた。
砂利の所では母親が座り込んで泣いているのが見えた。
とりあえず俺は下に降りて、父を見つけて一緒に探すことにした。
確かに浅いところは流れが緩いが、真ん中の方に行くとさすがに当時高校2年の自分でも足を取られそうになるくらいだった。
「これはもう助からないんじゃないか・・・」
そう考えてしまう程だった。
そんな中でもしばらく探し続け、空も薄い灰になり、日も沈みかけたその時、「おい、何か流れてこんか?」と一人の男が言った。
俺も目を凝らして見ると、確かに何か黒い物が上流からこちらに向かって流れてくる。
「何だろう?」と見ていたが、近くに来るにつれ、それが何だか分かって背筋が凍りついた。
『仏壇』が流れてきていた。
どんどんこちらの方に流れてくるが、見れば見るほど不気味で、少し小さくボロボロになっている。
タイミングがタイミングだけに、全員が動けなくなってしまった。
数秒の沈黙の後、おもむろに村長が口を開いた。
「ヒロちゃん、神様に連れていかれちゃったのかもしれんね」
その言葉を聞いた俺は、さらに気味が悪くなってしまった。
結局、ヒロちゃんは3日後にもっと下流の方で遺体で発見されたが、腐敗が酷く、まるでボロ雑巾の様だったらしい。
それにしても気になるのはあの仏壇の事だが、後日に上流の方へ行ってみると、そこは民家一つなく、ほとんど人の立ち入れないような険しい崖になっていた。
その日も誰かがそこへ行ったという話は全く聞かないので、「それじゃあ、一体誰が?」ということになったが、それは分からないままだ。
(終)