こんなにハッキリした幽霊がいるのだろうか
未だにその人が『幽霊』である確信は持てないが・・・。
これは、関東の避暑地に小さな別荘を建てた時の話。
山の中で周囲に人家はないが、1軒だけ遠くに緑色の屋根が見えた。
一応挨拶しておくかと、着工前の4月に俺たち夫婦と棟梁の3人で挨拶に行った。
すでに亡くなっていた
住んでいたのは80代の老夫婦。
話によれば、東京からのIターン組の奥さんは酷く痩せていて今は体調を崩しているそうだが、毎週子供たちが交替で東京から来てくれるので、通院や生活面は問題ないんだと御主人は言っていた。
そして別荘は7月に完成し、今度は俺と棟梁の2人でその家へ挨拶に行った。
呼び鈴がピンポンと鳴ると同時に(まるで待ち構えていたように)ドアがパッと開いたが、立っていたのは奥さんだけで、狭いLDKに御主人の姿はない。
奥さんは、「まあ別荘ですか・・・お幸せですねえ・・・」と、4月に挨拶した時と全く同じ言葉を3回ほど繰り返しただけだったので、少しボケているのかな?と、棟梁と話しながら帰った。
ところが、俺と棟梁が挨拶した1週間ほど前に、その奥さんは亡くなっていたという。
御主人は葬儀のため帰京していたので、俺たちが挨拶した日に「その家は無人だった」と、後で地区長さんからそう聞いた。
地区長さんは付け加えて、「自分は留守中の見守りを頼まれていたから絶対に間違いない」と。
でも、天気の良い真昼間に、60センチほどの至近距離で会話を交わしたり、菓子も直に手渡ししたりと、あの奥さんが幽霊だったという実感がまるでない。
奥さんは年齢のわりに背か高く、彫りの深い特徴のある美人顔だったので、俺と棟梁の2人して別人を見間違えたということはないだろう。
奥さんは青白くて元気はなかったが、それは4月に会った時もそうであり、それに全然透けておらず、足だってちゃんとあったと思う。
なので、こんなにハッキリした幽霊がいるのだろうか?と、逆にモヤモヤしている。
(終)