記憶を残したまま転生しているのか

電車

 

これは、現在進行形で不可解な体験をしている話。

 

俺は数年に一度、変な人に絡まれる。

 

その変な人は、爺さん、婆さん、おっさん、おばさんと、みんな違う人。

 

一番若くても、自分の親より少し若く見えるくらい。

 

そんな人たちが俺を友人扱いしたり、先生と呼んだりする。

 

決してからかっている様子もなく、本当に友人や先生に見えているような言い方や扱いをされる。

 

そして今朝、決定的なことが起きた。

 

電車を降りた直後、見知らぬおっさんが駆け寄ってきて、俺の顔を直視した。

 

そして、「お父さん!」と言って抱きついてきたのだ。

 

俺は凍りついた。

 

変な人に絡まれるのは慣れているが、親より年上であろうおっさんに「お父さん」と呼ばれた時の気持ち悪さは格別だ。

 

周囲はドン引きになっていた。

 

俺とおっさんの周りが、ぽっかりと空いた。

 

「違う違う」と言っても、おっさんは離れようとしない。

 

「他人の空似じゃないんですか?」と言っても、おっさんは「なんで他人のフリをするんですか!」と怒る。

 

その後も早口で捲くし立てるように喋るが、何を言っているのかわからない。

 

しばらくした頃、誰かが呼んだのか駅員が来て、俺とおっさんを事務所に案内した。

 

駅員は、俺とおっさんそれぞれに話を聞いた。

 

おっさんが言うには、彼の父は20年以上前に亡くなった。

 

普通は死ねば記憶を失い、魂だけが転生する。

 

しかし、彼の父は記憶を残したまま転生する術を使い、親族や友人に会いに行くと約束した。

 

最初は誰も信じなかったが、「父を見た」という話をあちこちで聞いた。

 

次第にみんながもしかしたらと思い始め、彼も信じるようになった。

 

そして、やっと父に出会えたのだという。

 

それを聞いて、俺も駅員も困惑した。

 

おっさんは身なりが整っており、高価な物を身に付け、地位も金もありそうな雰囲気だった。

 

それなのに、転生だの魂だのなんて言葉を連発し、子供と同年代の男を父親だと決めつける。

 

妄想そのものだった。

 

結局、「他人の空似でしょう」ということで話がついた。

 

俺は空似もクソもないだろ・・・と思ったが。

 

しかしおっさんは、「君は父親を見間違えるのかね?」と食い下がった。

 

それでも駅員は空似で押し通した。

 

面倒くさかったのだと思う。

 

別れ際、おっさんから名刺と連絡先を書いたメモを渡された。

 

「記憶が戻ったら連絡してください」とのことだった。

 

名刺には、誰でも知っている企業の名称と、執行役員という肩書きが添えられていた。

 

帰宅後、その企業のウェブサイトを確認してみた。

 

確かに、役員一覧には今朝出会ったおっさんの写真と名前が掲載されていた。

 

俺はまだ混乱している。

 

連絡した方がいいのだろうか・・・。

 

(終)

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