真夜中のキャンプ場で響き渡る場違いな音

オルゴール

 

これは、友人が高校の部活でキャンプをしていた時に体験した奇妙な話。

 

真夜中に場違いな、しかし美しいメロディーがキャンプ地に響き渡った。

 

慌てて起きた皆の目に入ったのは、わりと大き目の『薄汚れた箱』が1つ。

 

場の真ん中で、古いオルゴールが音を刻んでいた。

 

開いた上蓋の内側に、白黒のポートレイト(肖像)が貼ってある。

 

はにかんだように笑う、幼い女の子の写真。

 

白人らしい。

 

部の誰にも見覚えがない顔だった。

 

誰が置いた?と考えてみても答えは出ない。

 

仕方なく一番下っ端だった彼が、キャンプ場外の森の中へ持って行かされた。

 

静かにはなったが、なんだか気持ちが悪くて、なかなかその後は寝つけなかったという。

 

1時間くらいが経った後、記憶にあるメロディーが再びキャンプ場に響く。

 

誰もテントの外には出ていないはずなのに、あのオルゴールが戻って来ていた。

 

「これ以上は手を触れるな。放っておこう」

 

部長がそう宣言し、皆それに従い、無視して就寝することになった。

 

しかし、音が気になって寝られるものではない。

 

皆は息を殺して、ただオルゴールの発条(ぜんまい)が切れるのを待っていたそうだ。

 

やがて音が間延びし始め、じきに何も聞こえなくなった。

 

やれやれ、やっと寝られる。

 

ほっと一息ついた、その直後だった。

 

キリッ、キリッ、キリッ、・・・・・・。

 

誰かが、ゆっくりと発条を巻き始めた。

 

誰も声を発することができない。

 

誰もテントの外を確認できない。

 

ただそのまま、オルゴールの音色が流れてくるのを黙って聞いていた。

 

発条は繰り返し何度も巻かれたという。

 

夜明け前になって、ようやく静寂が訪れた。

 

発条を巻き上げる音も、それ以上は聞こえてこない。

 

恐る恐るテントから顔を出してみる。

 

オルゴールは姿を消していた。

 

テントから出て来た部員は皆、疲れて冴えない顔をしていたらしい。

 

「オルゴールの音、聞いてもらいたかっただけなのかな」

 

誰かがポツリとそう漏らした。

 

彼はなんとなく、そうかもしれない、そう思ったという。

 

(終)

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