買ってくれと薬屋に持ち込まれた骨
これは、知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
「石も生薬の材料に使います。竜の骨とか呼んでいて、まぁそのほとんどが化石なんですけどね。
こんなことがありました。
ある時、知り合いの薬屋に御邪魔していると、一人の男性が買ってくれと言って『大きな灰褐色の物体』を持ち込んできたのです。
長さは男の背ほどもあって、古い柳の幹ほども太さがありました。男いわく、これは間違いなく“竜の骨”だと」
薬屋はしばらくそれを調べていたが、やがて顔を上げて言った。
「うちじゃこれは扱えない。○○へ行ってみな。あそこなら捌けるだろう」
ちょっと不思議に思ったという。
そこの薬屋は、確か竜骨も扱っていたはずなので。
男が去った後で、「何か問題があったのですか?」と聞いてみた。
薬屋は肩を竦めて、こう答えた。
「問題というより、私にはあれを扱う知識がないんだ。あれはまだ骨の部分が多くて完全には石と変じていなかったから。どういう動物のどこの骨かわからないと、とても狙い通りの薬効は出せない」
「化石になっていない?それにしては随分と大きな代物でしたが・・・」
「どんな動物の骨なのかはわからんね。時たま、決まって××の出身者が持ち込んでくるんだ。今の男も恐らくそこの者だよ。手首に変わった装飾を巻いてたから、まず間違いない。
あそこの奥は信じられないほど山が深いらしいからね。得体の知れない神代の生き物が今でも隠れ棲んでいるんだろうよ」
ふと思い出して確認してみる。
「○○って確か、この近くの裏通りにある故買屋でしたよね?」※故買=盗品
「だから薬じゃなく、そういう類の物として捌くということさ」
最後に首を傾げながら、彼は話をこう締め括った。
「あれは、一体何という生き物の骨だったのでしょうかね?形状からすると脚の部位のように思えたのですが・・・」
(終)