お寺の本堂で過ごした夜に
今からちょうど5年前。
中学生3年生の時の、
夏休みのお話。
高校受験を控えた夏、
少し気の抜けていた私は
両親の提案で、
知り合いのおじゅっさん(お坊さん)
の居るお寺へ修行と言う事で、
1週間泊まる事に。
最初のうちは、
特筆する事は無かったのだが、
4日目の夜。
お住職さんから、
「今晩は、本堂の番をして下さい」
と言われ、
本堂で眠る事に。
その本堂には、
身寄りの無いお骨と骨壷が、
棚の上に並べられている。
お骨に足を向けて寝るのは
失礼に値すると言う事で、
お骨に頭を向けて寝ていた。
深夜2時(超ベタだが)、
ふと目が覚めた。
例によって、金縛り。
金縛りには何度か
遭ったことがあるのだが、
状況が状況なだけに、
怖さ数倍。
よく、お経を唱えればいい、
などと言うが、
いざそうなると、
そんな余裕は無いものだ。
頭をなんとか少し動かせたので、
周りを見渡して見ると、
並んだ骨壷の一番左から、
女の形をした
真っ黒な人影が出てきた。
真っ黒で表情も何も
見えなかったのだが、
髪の長さから見て、
恐らく女だったんだろうと思う。
その影は、
ゆっくりと私に近づいてき、
枕元にしゃがみ込んで、
首周りを上から押さえてきた。
苦しさではなく激痛が走り、
声も出ない。
しばらくその状態が続いた。
その影はスッと立ち上がり、
本堂の入り口の方へ
歩いていった。
ひとりでにドアが開き、
外へ出ていった。
その日は半ば気絶状態で
眠ってしまった。
朝起きて、
本堂を出ると
ソファがあるのだが、
そこに、外回りの
おじゅっさんが寝ていた。
すると、
そのおじゅっさんは、
「昨日、夜中にトイレ行った?」
と聞いてきた。
行ってないと答えて、
理由を尋ねると、
「いや、昨日の夜、
そこのドア開いたから
見てみたんやけど、
誰もおらんかったから
トイレでも行ったんかな?
と思って」
・・・夢じゃなかったのか。
そこで、事情を説明して、
お住職さんに報告。
もう一度、
本堂を見に行くことに。
影が出てきた骨壷を
見てみると・・・
蓋と壺の間に、
一番大きい骨が挟まっていた。
お住職さんは「こりゃいかん」
という事で、
次の日以降は本堂ではなく、
本堂の上にある空き部屋
(お住職さんの部屋の隣)
で寝る事に。
お住職さん曰く、
「恐らく今晩も出るでしょうから、
このお寺の犬を鎖に繋いで
部屋に入れておきなさい」
との事。
犬の鳴き声はそういった類のものを
祓う効果があるそうです。
そして夜。
やはり深夜2時頃、
金縛りに。
下の本堂から
物音がしたかと思うと、
階段をギィー・・ギィー・・と、
ゆっくり上ってくる音が。
「来たか」と思い、
犬を見てみると、
さっそく唸り声。
足音が上がって来るにつれ
吠え始めたので、
「心強いな」と思い、
少し安心していたのだが、
足音が止まる気配は無い。
と言うより、
少し早くなったような。
もう、すぐそこになり、
犬を見てみると、
人間の呻き声と
全く同じ声を出し、
涎もダラダラで、
鎖を引きちぎらんばかりに
逃げようとしている。
もう、ダメか・・・
と諦めかけたところで、
襖を開ける音がし、
お住職さんの喝が聞こえた。
足音が消えたと同時に、
金縛りも解けた。
お住職さんは私が心配で、
起きて警戒していてくれたそう。
部屋に駆けつけてくれた時、
自分では気が付かなかったが、
私は泣いていたそうだ。
足音が消えたにも関わらず、
犬はまだ呻きながら
逃げようとしている。
「早く離してあげましょう。
このままでは狂って
死んでしまいます」
と、お住職さん。
急いで鎖を外してあげると、
階段の上から飛び降りて、
転げ落ちながら逃げていった。
言葉を失っていた私に、
お住職さんは
「これはちょっとまずいですね。
こういったのに詳しい
知り合いがいますので、
明日一緒に相談へ
行きましょう」
と優しく言ってくれた。
次の日、
その知り合いの女性のところへ、
2人で相談に。
事情を説明すると、
「それはちょっとまずいですね。
恐らくその女性は、あなたに相当
入れ込んでいる様です。
下手をすれば、取り返しの
つかないことになります。
言いたくありませんが・・・
ここにも付いて来ている様ですし」
言葉が出ない私に代わって、
お住職さんが
「どうすればいいのですか?」
と尋ねてくれた。
すると、その女性の方は
「本堂から上に上がる階段の
一段目の両端に塩を盛って、
それをさらに塩で繋ぎなさい。
これで一種の結界のような
力があるのですが、
それを超えてくる可能性もあります。
なので一応、
あなたの寝ている布団の四隅に
魔除けの仏具を置いて、
またそれを塩で繋いでおきなさい。
これで恐らく大丈夫でしょう」
その日の晩、
言われた通りにすると、
そこからは何も起こりませんでした。
しかしそんな事があってから、
今でも睡眠薬が無いと眠れません。
(終)