地の底に引き摺り込まれていたかもな

テント

 

これは、不可解な体験をした同級生の話。

 

一人で夏山を縦走していた時のこと。

 

小さなテントでぐっすり眠っていた深夜、どこか遠くから声が聞こえてきた。

 

「おーい」と、くぐもったような声が耳に届く。

 

寝惚け眼を擦りながら「何だよ?」と呟いた次の瞬間、グラッと地面が揺れた。

 

パッと目が覚め、慌てて辺りを調べたが、別におかしな所はない。

 

地震の揺れでもないようだ。

 

「おーい」と呼ぶ声は、しつこく続いている。

 

・・・この声、夢じゃなかったんだ。

 

恐る恐るテントから顔を出し、「誰?」と返してみた。

 

と、また地面がグラッときた。

 

緊張した。

 

周りの樹木は動いていない。

 

揺れたのは自分のテントだけ。

 

首を引っ込めて、シュラフに潜り込む。

 

何だこの声?と聞き耳を立てていると、どうにも奇妙な感じがした。

 

声が地の下の方から聞こえてくるような気がしたのだ。

 

もう絶対に無視する。

 

そう決めて腹を括り、そのまま眠ることにした。

 

翌朝、テントから出ようとした彼は焦った。

 

入り口のファスナーを開くと、黒土が中に流れ込んできたからだ。

 

外に這い出してから言葉を失った。

 

固い地面の上に設営したはずのテントが、二十センチばかりも大地の中に潜り込んでいる。

 

テントの周りの土だけが、まるで耕されたばかりであるかのように柔らかくなっていた。

 

「あのまま答え続けてたら、そのまま地の底に引き摺り込まれていたかもな。さすがに怖かったよ、一人だったしね。それからどうしたかって?予定通り縦走してから下山したよ。それ以上、他に変なことは起こらなかったし」

 

本当に怖かったのかよ!?

 

思わずそう問い質した私だった。

 

(終)

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