帰れるのは一人だけ
これは、知り合いの体験話。
仲間三人で、雪山に篭っていた時のこと。
テントを畳んでいると、誰かが耳元で囁いてきた。
「一人だけ…。帰れるのは一人だけ…」
周りには、仲間以外に誰もいない。
気のせいだと思い、忘れることにした。
その夜から天候が悪化し、吹雪に閉じこめられてしまう。
吹雪は一向に止まず、食糧も尽きた。
しかし皆、何とか生き長らえ、全員が無事に下山したのだという。
その後一年の間に、知り合いの彼以外の二人は不慮の事故で亡くなってしまった。
「事故だって、偶然だって、わかってはいるけどね…。あの時のあの幻聴が気になって仕方ないんだよ」
あれ以来、彼はすっぱりと山を登ることを止めてしまったそうだ。
(終)
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