田んぼに白ずくめの人たちがうねうねと
これは、お盆に山形県にある父の実家に帰省した時の話。
夏休みの宿題の自由研究でトンボの観察をするため、昼過ぎに田んぼのあぜ道にビデオカメラをセットした。
そしてそのまま川へ泳ぎに行き、その帰り道でのこと。
生暖かい風が吹いてきた。
折角さっぱりしたのにと思って空を見上げると、入道雲がもくもくと空に広がっていく。
一雨くるな、と急いでカメラを回収しにその場所に向かった。
雲の影が田んぼを走っていく。
カメラが見えてきた。
その時、カメラの向こうに何かが見えた。
遠くからでよくわからなかったが、『全身白ずくめの人たちがうねうねと動いてい
る』ようだった。
それがだんだんと遠ざかっていく。
その先には田んぼしかない。
奇妙に感じたが、雨も降りそうなのでカメラの回収が先だった。
そしてカメラを持って家に着くと、すぐに夕立が降りだした。
濡れずに済んだと安心して居間に入った時、ちょうど祖父も帰ってきた。
濡れた頭をタオルで拭きながら居間にきた祖父に、さっき見たものを聞いてみた。
すると祖父は途端に険しい顔をして、「にしゃ(お前の意味)、あれ見だんか?目ぇ合わせぢまっだんか?」と言う。
ちょうどその時、雷が大きな音を立てて近くに落ちた。
祖父のあまりの剣幕と雷に驚いて、訳もわからず僕は泣き出してしまっていた。
「遠くだったからよくわからなかったよ…」
泣きながらそう言う僕の頭を撫でながら、祖父は言った。
「あれは見ぃだらいがん。見んでえがった」
祖父は涙ぐんでるようだった。
ちなみに、落雷で停電してしまったので、撮っていたビデオを見るのは忘れていた。
(終)