迎え火を焚いた夜の怪奇
これは、10年前のお盆のこと。
当時、私はマンションの高層階に一人で住んでいた。
半年前に最愛のおばあちゃんが亡くなり、その頃は少し女々しい気分になっていた。
そんな時に偶然、近所のスーパーで『迎え火』のセットを見かけた。
それまでそんなことをした経験はなかったが、ふと夜中にベランダで迎え火を焚いてみた。
焚いた後、きちんと火の始末をし、部屋の明かりを消してベッドに入ると、誰かがベランダ側のガラス窓をコン、コン、と叩く。
最初は「ん?風かな?」と思ったが、次第にその音は、まるで人間がノックしているように感じ始めた。
それも、女性のか細い手で、遠慮がちに叩いている音に思えてきた。
でもなぜか、「これはばあちゃんではない」とはっきりわかったので、ずっと無視していた。
だが、次第に窓を叩く音が激しくなり、挙句にはヒステリックに手のひらでバン!バン!バン!と叩きだした。
文頭にも言ったが、ここは高層階だ。
かなり怖かったが、さっき迎え入れたばあちゃんが部屋の中にいるはずだからと思い込んだ私は、ただひたすら「ばあちゃん助けてくれ!アレを追い払ってくれ!」と、一心不乱に祈った。
そのおかげか、しばらくすると窓を叩く音が止み、その後も金縛りなど怪奇なことにも遭わず、朝まで眠ることができた。
無事で何よりだったが、信仰心のない人間がみだりに真似事をするものではないな、と思った。
こっくりさんではないが、時と場合によっては、“迎え火は下手をすると変なモノを招き寄せてしまう”のかもしれない。
(終)