薄暗い中で墓の前に立つ老婆
これは、つい先日に体験した話。
その日は土曜で、夕方の4時頃まで寝てしまっていた。
そんな時間からは何もすることがなかったが、一日まったく家から出ないのもなと思い、ドライブでもしようと車を出した。
そうして栃木県の矢板市から日光市に抜ける道を走り、その途中の道沿いにある『墓地』を横目に通りかかっていた。
ちなみに、その墓地は土盛りがされているため車道から2メートルほど高くなっており、それが道沿いに続いている。
なので、そこを車で通る時はお墓が斜め上くらいに見えるのだが、視界の中に“お墓参りをしている一人のおばちゃん”が見えた。
ああ、墓参りか。
そう思ったが、その時はすでに夕方の5時半を過ぎており、辺りもかなり薄暗い。
太陽も山の向こうに完全に隠れてしまっている。
それを目にした時、こんな時間に墓参りなんてするか?という違和感を覚えたので、思わず車を止め、しばらくルームミラー越しでその様子を見ていた。
やはり見間違えではなく、おばちゃんがお墓の前に立っていた。
だが、微動だにしない。
普通なら、手を合わせたり、墓石を磨いたり、草をむしったりすると思うのだが、そういった動きが一切なく、虚ろな感じで斜め下の方を見てずっと立っているだけだった。
次第に少し気持ち悪いなと思い始めた俺は、その場を離れるか、もう少しだけ見ているか考えようとした次の瞬間、そのおばちゃんが両手を上にビンッと上げて、体ごとウネウネと動き出した。
まるで下から空気を送って動く風船人形のように、腰や上半身や腕がよくわからない動きでウネウネと。
それを見た瞬間、全身に寒気を感じ、慌てて車を出した。
今思うと、興味本位になるが動画でも撮っておけばよかったなと思うが、その時は恐怖しかなく、逃げることしかできなかった。
まさかあれほど自然に、この世のものではないものに遭遇するとは思わなかった。
いや、この世のものかもしれないが、だとしても怖いことに変わりはない。
(終)