風邪をひくと狐に憑かれる弟
「うちの弟さぁ、
風邪ひくと狐が憑くの。
凄いんだよ。
目つきとか変わって、
唸って違う人になるよ」
「何それ・・・?」
それは高校時代、
ファーストフード店で
ポテトを食べながら、
友達がさりげなく
不思議な事を言い出した。
そして、次のような事を
さらりと語った・・・。
彼女が小学生の頃、
家にまじないのばあさんが
来たんだそうだ。
当時、彼女は小さな離島に
住んでいたのだが、
まじないのばあさんは、
何処からともなくふらりと現れ・・・。
占いやら、まじないやら、
あの世の人の口利きやらの
用は無いかと、
彼女の家を訪ねたんだとか。
でもその時、
家には特に問題事が
無かったので、
まじないのばあさんには
断わって帰ってもらったそうだ。
まじないのばあさんが帰った後、
庭先を見るとそこには・・・。
庭の土の上に、
棒のようなもので何かの模様が
描かれた跡が残されていたという。
その夜一晩、
長男である彼女の弟は
熱にうなされて唸った・・・。
それ以来、
彼女の弟は風邪をひくと
狐憑きになり、
まるで人が変わるように
なったという。
・・・あの模様は、
呪いのまじないだったようだ。
「あのおばあさんに頼まないと、
弟は治らないんじゃないかな。
自分で仕事を
作っていったんだよね。
でも大丈夫、
風邪ひかなければいいから」
彼女は大らかに笑ったけど、
『いや、それ大丈夫じゃないよ・・・』
とコーラを飲みながら、
私は心の中でツッコミを入れた。
卒業して随分と歳月が過ぎた。
彼女の弟は狐憑きの呪いを
解いてもらえたのだろうか。
田舎にはまだこんな話がぽつりぽつりと
残っているものらしい。
(終)