呪われた首なし地蔵の噂 1/2
小学生の頃、近所の公園で毎日遊んでくれたお兄さんがいた。
その人は皆から「セミの兄さん」と呼ばれていて、一緒にサッカーをしたり虫獲りをしたり、どんな遊びにも付き合ってくれた。
僕はその頃、都会から転校してきて間もなく、そのお兄さんのことをほとんど知らなかったのだが、遊べば遊ぶほどに不思議な雰囲気を持つ人だなと思った。
「凄く物知りだなぁ」と思う時もあれば、「え?こんなことも知らないの?」と驚くこともあった。
ある年の夏休みにセミ獲り用に改造した3本重ねの虫獲り網を使って、そこら中でジージーと鳴いていたセミというセミをあっという間に全て捕まえ、セミの鳴き声でやかましかった場所を嘘のように沈黙させてしまったという武勇伝を聞き、それが彼の『あだ名の由来』だと知った。
小学生にとっては、いつでも遊んでくれる楽しい遊び相手だったが、大人達には「いい年して仕事もせず大丈夫なのかしら・・・」などと白い目で見られていたので少し複雑な気分になることもあった。
ある日いつもの公園へ遊びに行くと、セミの兄さんの周りにたくさんの子供達が集まっていた。
警泥や缶蹴り、氷鬼などの遊びをする時は10人以上の大人数になることもあるが、セミの兄さんの周りには明らかに20人近くはおり、その中の半分は近所の友達で、もう半分は見知らぬ顔だった。
どうやら隣町の団地にある山の森へ遊びに行くらしく、セミの兄さんが隣町の小学生も集めて「皆で行こう!」ということになったようだった。
噂の首なし地蔵のある場所へ
その当時は学区外への移動については学校であまり注意を受けておらず、自転車さえあれば10キロ程度の移動はさほど問題ではなかった。
その場にいた大部分のメンバーが行くことになり、セミの兄さんを先頭に隣町の団地へ出発した。
この時、セミの兄さんの自転車を漕ぐスピードがめちゃくちゃ速くて、僕らは息を切らしながら「やべぇよ、何であんなに速ぇんだよ」などと言いながら何とか付いていった。
僕らが目的地に到着したのはおよそ20分後で、その後さらに5分ほど待つと全員が到着した。
セミの兄さんは皆に向かって大声で言った。
「これから森に入るけど、ここはやばい場所だから絶対に一人で行動しちゃダメだからな!」
セミの兄さんに付いてきた連中のほとんどは、この団地の山の『有名な噂』を知っていた。
鬱蒼とした森の中の道を進むと、『首なし地蔵』と呼ばれる地蔵がある。
酔っ払ったサラリーマンが地蔵の首を蹴り壊し、その呪いでサラリーマンの一家は火事で全員死んでしまったそうなのだが、今でもその地蔵の前を通ると、「くびをよこせ、くびをよこせ、くびをよこせ」という不気味な声が聞こえるらしい。
隣町である僕らの小学校にもその噂は流れてきており、面白半分に女子に話すと大げさに怖がられ、学校の先生や親たちも皆この噂を知っていた。
「ここ、毎日学校へ行く時に通ってるけど、今までに一回も聞こえたことないぜ、そんな声」
隣町のKという男子がそう言ったものの、やはり皆は興味があるらしく、かく言う僕も『首なし地蔵』が本当にあるのかどうかを自分の目で見て確かめたいと強く思っていた。
今にしてみると、それが間違いだった。
セミの兄さんを先頭に、10人以上の大人数で首なし地蔵を目指して森の中を進んでいった。
すでに日が暮れかけており、オレンジ色の夕日が木々の葉っぱの隙間からキラキラと差し込む光景は、どこか幻想的でもあった。
道をだいぶ進んだところで、セミの兄さんが突然ぴたりと止まり、僕らに向かって「ここで待て」と制し、「ちょいとションベン」と言ってそのまま道脇の木陰に入ってしまった。
5分ほどしてから、道脇の方からガサガサと音がして人影がヌッと現れた。
僕はギョッとした。
現れたのはセミの兄さんではなく、変な目つきをした小柄な爺さんだったからだ。
その爺さんの目は、鳥か昆虫のようにキョロキョロと忙しなく動き回っており、気味が悪いのを通り越してどう見ても異常だった。
直感的にこれはマズイと思い、「やべぇ、逃げろ!」と脱兎のごとく走り出し、入り口を目指して逃げた。
逃げている途中、さっきまでは自信満々だったKが突然、「うわあ!うわあああ!!」と悲鳴をあげた。
Kの視線の先を見ると、10メートルくらい先のところに変なモノがいた。
そこには”逆さまの男”がいたのだ。
そいつは頭で地面に立っていた。
もう、そうとしか言えないほどに頭が足なのだ。
頭があるべきところに足があって、地面に頭を乗っけて、歩くくらいの速さでススス・・・と動いていた。
後頭部をこちらに向け、逆さまのままでそいつは迫ってきた。
逆さまの体がススス・・・と動く度に、周りの木々がバキッバキバキッと音を立てて揺れ出し、葉っぱや木の枝が大量に落ちてきた。
それと同時にキーンと耳鳴りがして、頭が強烈にガンガン痛み出した。
逆さまの男はその間にもススス・・・とこっちに向かって近づいており、僕らは発狂したり大泣きしたりしながらも、森の中の道を出口を目指してひたすら猛ダッシュで駆け抜けた。
決して後ろを振り返らず、無我夢中で走り続けた。
(続く)呪われた首なし地蔵の噂 2/2