廃れた田舎に伝わる怨姫の呪い 3/3

 

「・・・呪いを解かないと、

どうなるんですか?」

 

彼は喋るのも嫌そうに、

こう答えた。

 

「・・・多分、

 

あなたの祖母さんと

同じ目に遭うんじゃ・・・

 

ないですかね・・・」

 

着いたのは、

寂れた神社だった。

 

もうこんな真夜中になったのか?

と錯覚するくらい、

 

暗く闇に包まれた世界だった。

 

彼の後を付いて行くと、

 

そこには優しい顔をした、

お地蔵様がいた。

 

「私が以前、

 

あなたと同じ出来事に

遭った時に、

 

父に言われたんですよ。

 

このお地蔵様に、

 

あるお祈りを捧げると

呪いは解ける、

 

とね」

 

「ある、お祈り・・・?」

 

「えぇ」

 

彼はお地蔵様の前に座ると、

 

両手を合わせ、

目を閉じた。

 

俺も、それに習った。

 

『水霊の神様、

 

私の赤き怨姫の呪を

浄化してください。

 

私はその礼に、

 

故郷を永久に愛する誓いと、

無に去った右目を捧げます』

 

難しい言葉だらけで

復唱に戸惑ったが、

 

なんとか言えた。

 

刹那、

 

俺の右目が

火を噴くように熱くなり、

 

俺は気絶に誘われるが、

力を振り絞り、耐えた。

 

ふっ、と痛みが引いた。

 

と目を開けると、

先程の優しい顔は何処へ、

 

痛みに耐えるかのような

苦しい顔をした、

 

お地蔵様がいた。

 

そして次には無表情になった顔は、

ニタァと邪悪な笑みを浮かべ、

 

『アカキウラミハ、ツネニココニアリ』

 

と言い、

優しい顔に戻った。

 

「・・・つまり、

 

誓いを破れば、

いつでも呪ってやるぞ、

 

という意味ですよ」

 

彼は、俺と同じく

冷や汗を垂らしていた。

 

「・・・あなたも一緒に

見たんですか?」

 

「この誓いは、

 

以前に呪いを捧げた人がいなくては

成立しないんですよ。

 

いずれ、

 

あなたも同行者となる日が

来ますよ。

 

絶対にね」

 

と言い、

立ち上がった。

 

「さぁ、帰りましょうか」

 

ふと、俺は気づいた。

 

俺の腕の裂傷は、

完全に塞がれ完治していた。

 

そして、

 

右目は漆黒の闇しか

映していなかった。

 

車中で俺は、

気になることを聞いてみた。

 

「そういえば、怨姫?でしたっけ?

あれって何ですか?」

 

「・・・昔、あの村の

とても可愛らしい、

 

まるで姫のような高貴さを

纏った女性がいました。

 

彼女はいずれ結婚し、

子供を産む予定でした。

 

しかし、

 

旦那となるはずだった男が

喧嘩の挙句く彼女を殺し、

 

両腕両足をもぎ取って

バラバラ死体にしたのです。

 

しかし、

 

彼も彼女に右目を毟り取られ、

出血多量で死にました。

 

それからあの呪いが始まったので、

怨念の姫と呼ばれているんですよ」

 

あの村の過疎化は、

そこからかも知れない。

 

「そういえば、

 

どうして老婆達は

急に倒れたんでしょう?」

 

「あれこそ、

怨姫の呪いですよ。

 

満月の夜には、

 

適当に選ばれた老婆がああやって

男を殺しに行くんです。

 

男は老婆に殺され、

女は呪いで右目左目と順に失い、

 

やがて凄惨な最期を遂げるんです。

 

まぁ、時には違う死に方も

あるようですが」

 

違う死に方というと、

 

俺の代わりに鍬の津波を受けた、

あの老婆だろうか。

 

そういえば、

俺の祖父はどうなるんだ・・・!?

 

「・・・両目が赤いのなら、

女と同じ死に方でしょうね。

 

変わった死に方の一例です」

 

「そんな・・・!

呪いを解かないと!」

 

「・・・残念ですが、

 

両目を失った人は

助かりません。

 

呪いを受けて助かるのは

片目まで。

 

そして、

同行者がいないといけません」

 

「あなたはどうして他の人を

助けないんですか!」

 

「同行者の権限は、

一回だけなんです。

 

私の父は、

私を助けた後、

 

他の人を助けようと

東奔西走しました。

 

しかし、

誰も助けられない。

 

反感を買ってしまい、

ついには殺された。

 

親族の私の話など、

聞く耳を持ちませんしね」

 

そんな・・・

なんて皮肉な話だろうか。

 

そして俺は絶望した。

 

俺は両親に何もしてやることが

出来ないなんて。

 

「・・・元気な顔を

見せてあげてください。

 

たとえ見えていなくても、

 

来てくれるだけで

嬉しいはずですよ」

 

あっという間に、

駅まで着いてしまった。

 

帰り際、彼はこう告げ、

料金を貰わずに去っていった。

 

「今日だけ我慢してください。

 

明日からは平和な毎日が

過ごせるよう、

 

共に頑張りましょう」

 

俺は家に着いた後、

何も考えず寝床についた。

 

怖かったという思いよりも、

 

疲れたという思いの方が

先行していた。

 

今度の土曜に帰省しよう。

 

出来れば満月の夜でない

ことを祈りつつ、

 

寝についた。

 

俺は夢を見た。

 

『今日だけ我慢してください』

 

なるほど・・・

そういう事か。

 

真っ白な背景をバックに背負い、

 

着物を着た女性が、

何かを抱いて立っていた。

 

それは、

 

両腕両足の無い、

祖母の亡骸だった。

 

そして彼女はニタァと嗤い、

 

『ワタシノアカチャン、

カワイイデショ?』

 

(終)

※嗤い(わらい)

⇒歯をむき出してあざ笑うこと

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